ケーキが繋ぐ父娘愛

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ケーキが繋ぐ父娘愛

そして、シフォンケーキを口に運んで咀嚼し始めた。 雅は感想が気になるのか、他の客がまだ居ないのを良い事に、トレーを抱えたまま、その場を動かない。 客が咀嚼したシフォンケーキを呑み込んで言った。 「雅ちゃん、シフォンケーキ作るの上手になってきたわねぇ」 「頑張っているのね。美味しいわぁ」 客が口々に雅のシフォンケーキを褒める。 「あ…ありがとうございます!」 雅は勢いよく頭を下げると客に礼を言った。 そして頭を上げると、調理場から覗いていた俺の方を振り返る。 満面の笑顔だ。 良かったな…雅。 俺はニヤリと笑い返すと、雅を現実に引き戻すように次に来店した客に言った。 「いらっしゃいませー」 雅もハッとして、我に返る。 「いらっしゃいませー!3名様ですね?こちらへどうぞ!」 雅の営業スマイルを超えた明るい声が店内に響き渡った。 閉店後。 従業員達も帰って、店内は俺と雅だけになった。 そろそろか。 俺は雅の成長に頃合いを見計らってたが、今、話すことにした。 「雅。掃除終わったら声掛けろ」 「うん!今日は嬉しかったなぁ。美味しいって言ってもらえて」 「シフォンだろ?他にも大事な仕事がある。それを教える」 俺の言葉に雅は驚いたようだったが、大きく頷く。 「うん!」 やがて、売り上げ金の精算を終えた俺の元に掃除を終えて手を洗った雅がやって来た。 「終わったよ」 「ああ。今から棚卸しの方法を教える」 「タナオロシ??」 「要は在庫チェックだ。いざケーキを作ろうとして材料を切らしてたら目も当てられないからな」 「言えてる」 「足りないのは、これからスーパーまで一緒に買い出しに行くか?」 「うん!」 雅は嬉しそうだ。 俺と雅で在庫チェックすると、砂糖と小麦粉、卵が残り少ないのが解る。 俺は雅と夕闇に染まった空の下、一緒に店を出た。 「今回は俺が荷物を持つが、量が多い時は宮田に車を出してもらえ」 宮田とは従業員で、確か店の近くまで車で来てる店員だ。 「うん!お父さん、手を繋いで歩こうよ」 雅が珍しく甘えた様に、そう言って手を差し出す。 「今だけだぞ」 俺はそう言うと雅の小さくて柔らかい手を握った。 そして、2人で歩き出す。 「お父さんとこうして歩くの久しぶり」 「ああ。そうだな」 父娘でいつまでこうしていられるかは解らない。 いずれは雅も独立するかもしれねーし、結婚するとかで俺の元から巣立っていくだろう。 雅の手の温もりを感じながら、このマッタリとした時間が長く続くのを願うばかりだ。 完
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