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看板娘
「有難う御座いました!またお越し下さいませ!」
数年後。
ケーキを買ってくれた客を送り出す、鈴を転がすような可愛い声に客も嬉しそうに言って去っていく。
「あら、可愛い事。また買いに来るからね」
高校を卒業した雅は、本当に俺の店を手伝い始めた。
朝、開店準備をしようと店に行くと、先に店の掃除をしている雅。
「おはよう御座います!お父さん…じゃない、店主!」
「応、雅。ご苦労さん。今日も頑張ってるな」
俺も修行したから解るが、パティシエになる為には、只単に美味いケーキを作れるだけじゃダメだ。
毎日の掃除と、店員としての挨拶。
基本だが、それが出来ない様じゃあ、何年経っても、ナッペすらさせられない。
まあ、大抵の場合、クビになるけどよ。
その点、雅はタマに今みたくボロが出るとはいえ、見習いとしては、合格点だ。
俺は雅が店頭に立つ様になってから、仕込みにプラスして、ケーキを作れる余裕が出来たので助かっている。
それに何より、雅の店員としての態度は、俺を凌ぐんじゃねーかと思うくらい愛想が良い。
ケーキ屋モサコは、父娘で力を合わせて、どんどん売り上げを伸ばしていた。
そろそろか。
夕飯を食い終わった閉店後、俺は金の計算をしながら、以前から思っていた事を雅と香澄にも伝えようと思っている。
特に雅は直接、店にも関わっているから、奴なりの意見も聞きたかった。
リビングに戻ると、2人は揃ってバスローブ姿になっていた。
香澄と雅はソファーの上で携帯をいじってる。
特に雅の方は横になりながらだ。
「香澄に雅。話がある」
俺が2人にそう声を掛けて椅子に座ると、香澄と雅は顔を見合わせてから、不思議そうに椅子に座った。
「何?貴方。改まって」
「今、友達とメールしてたんだけど」
ちと不満そうな雅だったが、俺は構わず2人に言った。
「店の店舗拡大、従業員の雇用、配送サービスに手を付けようと思ってるんだ」
「「えっ!」」
2人は驚いた様に一斉に俺を見る。
「お父さん、店舗拡大って山村亭みたいにお店を広くするの?」
「只、広くするだけじゃない。喫茶スペースにして、店内でケーキを食える様にさせたいんだ。だが、それには俺と雅だけじゃ回らない。人件費も払えるようになったから、店員の数も増やしたいんだ」
「配送サービスって言うのは?」
「要は出前みたいなもんだな」
「貴方と雅が良いなら、私も良いわ」
「私も賛成!賑やかになりそうだし、忙しくはなるだろうけど、充実しそうだもん!」
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