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モサコ店舗リニューアル
喫茶スペースも出来上がってからは、雅には主にウエストレスをさせていた。
雅の営業スマイルを始め、接客に対しては、俺を抜きん出ている。
他の店員が、テイクアウト用に店頭に並ぶ今、俺は店の調理場でケーキ作りに集中出来た。
「いらっしゃいませー!お一人様ですか?当店は全席禁煙になっております!こちらへどうぞー」
雅の明るい声が店内に響き渡る。
俺はその声を何気なく聞きながらケーキをナッペしていた。
「ご注文がお決まりになりましたら、こちらのベルでお呼び下さい」
そう言うと、雅は何故か調理場の俺の方へやってきた。
「お父さん、お父さん」
「何だよ、雅。店内では店主って呼べって言ってるだろ」
小声の雅の言葉に、俺も店の手前、手を止めずに小声で返す。
「店主、あの人また来てる」
雅の声に俺は仕方なく手を止め、ホールを覗く。
と、面接で落とした小野が雅を見ていた。
俺と目が合うと、慌ててメニュー表に目を逸らす。
「雅。ホールは他の店員に任すから、テイクアウト用に店頭に立て」
「うん…ごめんなさい。店主」
雅はそう言うと、小野の席からは死角になる店頭に行った。
途中で雅と小野を引き離したからか、何事も無く、その日の営業は終了時間を迎えた。
しかし、小野は毎日のようにケーキを食いに店に来ている。
それも雅目当ての様だ。
雅も、ねっとりとした小野の視線に気付かないフリして、始めこそは笑顔で他の客と同じ様に、接客してた。
だが、まだ20代前半位の小野は、働いてないのか、平日の日中でも平気そうに1人で店に来る。
雅も小野が自分目当てで来ている事に段々と嫌悪感を持った様だ。
だから俺は小野が店に来ると、決まって雅に店頭から死角になる席に案内させ、店頭の店員とチェンジさせていた。
これが客じゃなければボコボコにしてるところだがな。
だが、実害も無いのに小野だけ店内には入れない訳にはいかない。
雅もうわべでは、他の客と同じ様に接客してる。
只し、必ず店頭から死角になる席が空いてれば、そこへ案内していた。
「お疲れ様でしたー」
そんなある日。
従業員達が次々に店を出てく中、明日の仕込みをする俺と、店内を掃除する雅だけになった。
「お父さん…明日も、あの人来るのかな」
雅が心配そうな声を出す。
「何、来たら来たで又、店頭の死角になる席に案内して、持ち場チェンジすれば良いだろ。それに万が一の時は俺が守る」
俺の声に雅は少しだけ安心した様に笑顔を見せた。
だが、その矢先…。
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