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ストーカー
売り上げ金の精算をしてる俺の元へ、先に上がった筈の雅が店内に戻ってきた。
「お父さん、これ…」
不安そうな声で封筒を差し出される。
一見、雅宛の手紙の様だが、よく見ると消印が押してない。
嫌な予感がして、封筒の裏側に目をやると、履歴書に書いてあった住所と小野光という差し出し人の名前が書いてあった。
「中、見て…」
雅の声に俺は中に入っていた手紙を取り出す。
そこには…。
『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』
…と書かれていた。
何だよ、これ。
雅は今にも泣きそうな顔をしている。
無理も無い。
こんな手紙貰ったら、俺だったら破り捨ててやるところだが、一瞬そうしようとして、俺は思い留まった。
「雅。この手紙は俺が預かっとく。何ならしばらく店に出るのを辞めるか?」
俺の言葉に、しかし雅は首を振る。
「皆、頑張っているのに、私だけ抜けることなんて出来ないわ。それにパティシエになるのは私の夢だもん。それに…私にはお父さんが付いてるし」
「雅…」
俺はしばらく雅を店頭担当にさせることにした。
それからも、何日かは店に来ていた小野だったが、雅がホールに居ないのを見ると、それでもケーキだけは食って帰っていく日が続く。
とうとうある日、小野が店に来なくなった。
やっぱ、雅目当てで毎日来てたのだろう。
俺は、雅のストーカーとはいえ、常連客を失った事に、複雑な思いも有ったが、それ以上に、やれやれと安心する。
雅も安心した様だ。
それでも念の為、雅をホールには戻さなかったが。
店の定休日。
友達の家に遊びに行くと言って出かけて行った雅が、どういう訳かなかなか帰って来ねー。
俺は気にはなったが、まだ外は明るいし、久しぶりだって言ってたから、積もる話でもしてるんだろうと思っていた。
しかし、外が薄暗くなってきても雅は帰って来ねー。
俺は胸騒ぎがした。
陽が伸びてきた、この時期。
何ともなかったなら良いが、このまま夜になっても帰って来なかったら。
俺は手早くやる事をやり終えると、携帯を取り出した。
雅の携帯に電話する。
しかし、雅は出ねー。
俺は香澄に一言断ると家を出た。
雅の居所に心当たりが有る。
俺は先日、雅が渡した小野からの手紙に書かれている住所を携帯に入力した。
待ってろよ、雅。
俺は携帯のナビに従って小野の住所に向かう。
と、近くまで来た時だった。
「お父さーん!」
「雅?!」
雅が走ってくる。
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