万事解決?

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万事解決?

それも血相を変えて。 そんな雅の後ろから小野も走ってくる。 が、小野は俺と目が合うと、蛇に睨まれたカエルの様に失速した。 「お父さん!」 雅は俺の元へ辿り着く。 走って来た勢いのまま俺にしがみつくが、俺はよろける事なく、雅の身体を受け止めた。 「大丈夫か?雅」 雅の身体は恐怖のせいか震えている。 俺は強く雅の身体を抱きしめると、ギロリと小野を睨んだ。 小野は立ち止まって…そのまま来た道を一目散に逃げて行く。 「怖かった…。帰りに小野って男性に会って…」 小野が店に来ないって事は、そう言う可能性も有った訳だ。 俺は、そこまで考えが至らなかった自分を恥じた。 「悪かったな…雅。外で小野に会う可能性も有る事も少し考えりゃー解りそうな事だったのに…」 「ううん。私も久しぶりに桜子さんに会いたかったから…」 桜子とは雅の友人の名前だ。 と、俺の腕の中で、雅が顔を上げる。 「でも、お父さん。助けに来てくれたんでしょう?ありがとう」 「いや。只、又、外で小野に会っても対応出来ない。外出は当分しない方がいいな」 「でも、又、小野さんがお店に来たら…?」 「来たとしても、流石に店の中じゃ雅に手を出せないだろ。雅が見られるの嫌じゃなければだけどよ」 「うん、平気。私をホールに戻して、お父さん」 雅は気丈にも大きく頷いた。 だが、それからというもの、小野が店に来ない日が続く。 怖気づいたのか? 何か拍子抜けだ。 小野が来なくなった店内で雅の元気な声が聞こえてきた。 「いらっしゃいませー!3名様ですね?此方へどうぞー!」 やっぱ雅を店に戻して正解だったな。 雅の、水を得た魚の様な様子をチラリと覗く。 「当店は全席禁煙になっております。ご注文がお決まりになりましたら、こちらのベルでお呼びください」 雅と目が合って、俺達は笑い合った。 そろそろ雅にもケーキ作りを教えても良いかもな。 俺はそう考え始めている。 それから数ヶ月後。 俺も、そして雅も小野の存在を忘れた頃だった。 まだまだ店には出せないが、雅の作ったケーキは回数を重ねるごとに美味くなってる。 開店前の店内では、雅がいつもの様に掃除をしていた。 「雅。今日の閉店後からシフォンケーキも作ってみないか?」 雅は驚き、そして笑顔で頷く。 「うん!嬉しい」 「解ってると思うが俺の教え方は厳しいからな」 「はい!店主。今日の閉店後が楽しみだわ」 「お早う御座います!」 従業員達も来始めて、開店を迎えた店内で、俺はケーキを作り始めた。
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