人狼的配慮

2/4
前へ
/8ページ
次へ
夫からの着信メッセージが、スマフォを振動させた。 カズくんといっしょに、画面をのぞきこむ。 同時に、またしても「人狼」という音声が耳に障った。 「日本政府も、もっと人狼的に配慮すべきでしょう」 ん? 日本の政府はなの? なにかが――いや、明らかに文脈が――おかしい。 テレビジョンのモニターを見ると、中央下部にテロップが出ていた。 「外国人の入国拒否 問題」 かちり、と胸の内で音がした。 パズルのピースがはまった感じ。 「(かおる)、どうした」 カズくんが夫の真似をして、私の名前を呼び捨てにした。 とりあえず、今のところはスルー。 夫氏に告ぐ。 あとでいろいろと、覚えておきなさい。 ソファに座り、息子を膝の上に乗せてニュースの続きを見た。 とりあえず、「人狼的に配慮すべき問題」は聞き間違いだと分かった。 では、停電前に聞いた人狼発言は何だったのか。 「パパはいつ、帰ってくるの」 「カズくんが寝たあとになるかな」 息子は、心配している様子だ。 「早く帰ってこないと、人狼のせいで電車が無くなっちゃうのにね」 ん? 終電繰り上げが人狼のせい? 「それ人狼のせいじゃなくて、コロナのせいだよ。まんぼうまんぼう」 「おまえは面白いこと言うなあ、薫」 だから、パパの真似はいいから。 「コロナなのに、人狼を増やしちゃいけないじゃないか」 息子の唱えた新説に、私は雷に打たれたような衝撃を覚えた。 うわずった声で、思わず叫んだ。 「コロナで増やしちゃいけないのは、人狼じゃなくて、人流(じんりゅう)だから!」 カズくんは、目を丸くして私の顔を見返した。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加