記憶に残りたいから

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今、目に映るのは、この11階からの額縁に納めた様な雨に煙る街並み。 そしてそれは、 あなたが明日の夜も、そしてこれから先も、 奥様(あのおんな)と見るだろう このマンションの窓越しの夜景。 私のことなんか微塵も残さずに、 温かな家庭の空気を纏って、明日は奥様の身体 だけじゃなく心まで抱き尽くすのだろう。 あぁ、私も心の底から、 あなたに愛されてみたい。 あなたが一生忘れられない女になるには どうしたら良いのだろう。 さっき、冷蔵庫から出したばかりのシャンパン をグラスに注いでベランダに出た。 ヒンヤリとした足の裏の感触のせいで、 ペディキュアのラメ色が一層、冷たく感じた。 冷え切った体に置き去りにされた火照る心。 重苦しい夏の始まりの空気が肌に纏わりつく。
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