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5 また来てる【side僕】
初メインの放送は無事に終えることができた。
アシスタントをしていた時から応援してくれていたリスナーさんたちから、たくさんの電話、メール、ファックスなんかが届き、中には番組開始を楽しみにしていたと、放送に合わせてはがきを送ってくれたおばあちゃんまでいて・・・。
嬉しくて幸せで、自分の声がたくさんのひとたちに届いていたことを改めて感じることができて、僕は放送終了後、暫くの間ブースから立ち上がる事が出来なかった。
「お疲れさん、リーチ。初メインの感想なんぞを聞かせてもらおうか?」
重い扉から顔を出し、ブチョーが笑いの混じる労いの言葉を僕にかける。
「―――――50分がこんなに長いって、今日初めて知りました・・・」
ぐったりと原稿の上に突っ伏してそう言うと、ブチョーが僕の髪をぐしゃぐしゃ掻き回すみたいに撫でて、「初めてにしては上出来だった」と言って、顔を上げた僕にニヤリと笑いかける。
「―――ま、ちとせからは、ダメ出し喰らうだろうけどな」――――一瞬だけ上がりかけたテンションが一気に落ちた。
「・・・ちとせサマ・・・、―――――うぅ~・・今夜は反省会かぁ・・・」
再び突っ伏した僕を見て、ブチョーが楽しげな笑い声をあげブースを出て行く。去り際、そう言えば・・・と思い出したように振り返り、「―――一番最初に読んだメール。あれ、何で選んだ?」―――どことなく訝しげな表情だった。
実は自分でもよくわからない。だけど、どうしても最初に読むならこれがいいって、直感的にそう思った。
僕の地元から送られてきた、”弱虫のシン”ってRNのリスナーからのメール。
”君の声は届いてる。俺に希望を与えてくれた。・・・ありがとう”
単純に嬉しかった。僕の声を受け止めてくれる人がいる。わかってくれる人がいる。それを伝えてくれた人がいた。
そしてもうひとつ・・・・・・あのひとと同じ呼び名。彼であるはずはないのに、ふと思い出してまた心が痛む。
だけど願ってしまうんだ。
“あのひとにも僕の声、届いてるのかな・・・”
そんな気になるリスナーからのメールは、僕の受け持つ番組に、必ず届くようになった。
そのひとは立派な(?)常連リスナーとなり、投稿の中にそのひとの名前がなかったりすると、他のリスナーから、今日はまだ弱虫のシンさんからのメール来てないんですか?なんて言われるほどに。
メールの内容は様々で、その日のテーマに添った投稿だったり、僕の声の雰囲気の違いを敏感に感じ取り気遣ってくれるものだったり、自分が今興味を持っている事柄だったり・・・。
いずれ、スタッフたちからも「また来てる」と、苦笑されるほどの熱心さでメッセージをくれるそのひとを、僕は心のどこかで待つようになっていた。
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