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序章
まん丸とした大きなひとみの小犬だった。
澄んだ黒いひとみに吸いこまれそうになった。
《ドキドキした》
そう、あれは5月だった。いつも小学校の帰りに見あげていた定禅寺通りの欅並木は、大海原の海面のきらめきのように黄緑色の新緑がまぶしかった。
ママのキスはやさしかったし、ママの匂いも好きだった(タバコを吸ったときは嫌い)。
──死んでも一緒だから!
とママが裸身のまま細い腕で強く抱きしめてくれたとき、ぼくは死ぬんだと思った。
暗闇のなかで、ぼくはずっと待っていたのかもしれない。宇宙の彼方からとどく一等星のひかりのようなものを……
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