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第1章
授業が終わり、午後の光が黒板を半分に色わけしていた教室から、すぐに帰ろうとしたぼくは、担任の長い黒髪が美しいナオミ先生に呼びとめられた。
メガネの奥のやや細いひとみの瞳孔を大きくひらき、じっとぼくの顔を凝視してから、ナオミ先生はふーと息をはいた。ぼくは恥ずかしくなって下を向いた。
──上品なブルーのキャスケットね!
とても素敵よ。
微笑んだナオミ先生は、いつもかぶっている短めのツバにふっくらとしたフォルムのキャスケットの上から、細い掌でぼくの頭を軽くぽんと叩いた。
──これをお母さんに渡してください。
先生からの大切な手紙です。
ナオミ先生はいつもと違うあまい香りがして、ぼくは和封筒の手紙を受けとりながら、白いブラウスから透けて見えるピンク色の肩紐にびっくりした。
《ドキドキした》
校門を出て見あげると、薄青い空にうすい雲が広がり太陽がいつものように光条を放っていた。
都会の喧騒のなかでも、ぼくはいつも見あげていた。いつでも太陽や星や宇宙を感じていたかったから……
交通量の多い大通りの幅の広い鋪道を走りだすと、少し前をクラスの3人の女子が、道をふさぐように横並びに歩いていた。真ん中にいる子は、ぼくと同じマンションに住んでいるカナエだ。
いつもと同じポニーテールのカナエは、振りかえると細い腕を水平にひろげ、ぼくの進路をふさごうとした。カナエは細身だけれども、ぼくよりも背が高く手足も長い。今日も品のよい花柄のワンピースの上に淡いピンク色のカーディガンを羽織っていて、とても大人びてみえた。
──ユウちゃん!
どうしたのその顔のアザ?
ナオミ先生からいろいろ聞かれたわよ。
ちょっとそのアザよく見せて!
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