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第2章
マンションの暖色系の間接照明が灯るエントランスロビーから、すっかり暗くなった外へ出ようとしたとき、ぼくを呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、エントランスロビーのソファから立ち上がったカナエが駆けてきた。
──ユウちゃんどこに行くの?
晩ご飯は食べたの?
──ううん。まだだよ!
コンビニでなにか買おうと思って。
──それならわたしも一緒に行く。
ふたりでマンションを出ると、ビルの隙間から都会の明かりに薄められた夜空に、白い満月とほんの小さな星たちが遠慮がちに輝いているのが見えた。
以前、田舎のおばあちゃんの家に泊まったときに眺めた夜空は、もっと吸い込まれそうな深い青銅色の空に、星たちがとても大きく見えたのに……
晩翠通りを南へ、仙台市の繁華街国分町の方へと歩きはじめた。
今夜のカナエは、黒のレザージャケットにポニーテールではなく髪をおろしていたため、さらに大人びてみえる。やや茶系の長い髪が風に靡くと、白い首筋があらわになり、胸もとがひらいた黒のレザージャケットから覗く白いTシャツは、少し膨らみがあった。
《ドキドキした》
定禅寺通りとのスクランブル交差点まで来ると、欅並木は黒い森のように通りを覆っていたが、通りを囲むネオンや照明やさまざまな喧騒によって、安眠が脅かされているようだった。
──これじゃ?
欅たちもゆっくり眠れないね。
カナエは小さく頷いたが、街灯に照らされた唇がほんのりピンクに潤んでいたため、あるいはリップをつけていたのかもしれない。カナエは少しずつ大人になろうとしていた。
ぼくはあまり大人が好きではないのに……
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