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第3章
欅たちを眠らせないものとは、いったいなんなのだろう……
ぼくとカナエは、定禅寺通りと国分町通りとのスクランブル交差点のかどにあるコンビニに入った。白昼のように明るい店内の通りに面したウインドウ越しに、都会のなかで森のように浮かぶ欅たちの姿が見えた。
欅たちはなにかにじっと耐えていた。なにかが違うような気がした。
明るい暗闇のなかに、欅たちはいた。
広い店内にはさまざまな大人がいたが、もちろん欅たちを見ている者も気にしている者もいなかった。なぜかしら、大人はみんなニセモノにみえた。
小太りでスーツ姿の中年男性と腕を組み髪をきれいにセットした若い女性が、ぼくとカナエを怪訝そうに見ていた。
最近の子どもはマセテイルわね、こんな夜までデートなんてと眉間にしわをよせ、すでにだいぶ髪の薄くなった中年男性に同意を求めて冷笑した。中年男性も、オレも若い頃からマセテイタンダと得意げに細い目をなくして醜く笑った。
ぼくは息苦しくなって、サンドイッチとペットボトルの飲料水を買うと、カナエの手を引いてコンビニをあとにし、そのままネオンや照明が燦然と眩い国分町の繁華街の通りを歩きだした。
ママは、子どもが行くべきところではないと国分町へ出入りすることを禁じていた。だが夕方になるとママは化粧をして国分町に出かけていたし、ママがキャバクラで働いていることぐらい、ぼくはわかっていた。
ママも毎晩、あの若い女性のようにきれいに髪をセットしていた。
星明かりの届かない、ネオンや照明に満ち溢れた通りは祭りのように混雑し、有象無象の大人たちが集まっていた。ぼくとカナエは、行き交う人々を避けながら歩るきつづけた。
喧騒と叫喚のなか、カナエははじめて見る光景に驚き怯えているようだった。
よりちからを込めて、ぼくの手を握っていたから……
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