第3章

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 しばらくしてぼくは一瞬びくりとし、ある真新しいビルの前で立ち止まった。ビルの中階ぐらいに大きな横長の看板が掲げてあり、数人の同じように髪をセットした若くてきれいな女性が微笑んでいた。そのなかのひとりにママがいた。  ぼくの視線を辿(たど)ったカナエも、大きな看板の中の若くてきれいな女性たちを見あげた。  ──ユウちゃんもう帰ろう。  わたしここあまり好きじゃない!  カナエがぼくの手を強く引っぱってくれた。ぼくも黙ったまま従った。  大人の街は、ネオンや照明で白昼のように明るく、喧騒と叫喚に満ちた眠ることのない場所だった。明るい暗闇に、大人たちは平然と(つど)い叫喚し歓喜していた。  そう、明るい暗闇だった。  ぼくがふたたび見あげると、カナエも同時に見あげた。ビルの上空の都市の明かりに薄められた夜空に、白い満月と小さな星たちが浮かんでいた。大人たちが知らない小さな輝きだった。
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