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第4章
国分町の繁華街から引きかえしたぼくとカナエは、定禅寺通りの中央分離帯の遊歩道に設置されている黒く光る「オデュッセウス」のブロンズ像のすぐ傍の木製ベンチに腰かけて、サンドイッチを食べた。
見あげると、豊潤な葉村に覆われた欅たちは、なにかを囁き合っているようにもみえたが、もちろんぼくには、なにを話しているのかわからない。
ぼくがなにを話しているの、と問いかけると、欅たちは微笑んだようにも思えた。カナエは欅たちの言葉がわかったら楽しいだろうと微笑んだ。
ふと、欅たちの樹冠の小さな隙間から、薄い青銅色の夜空を明滅しながら飛んでいる不思議なものが見えた。星たちよりもはっきりと明滅している。
──あればなんだろう?
光のなかに車輪が見えるけれど!
カナエも欅たちの樹冠の隙間を、ふたえまぶたのひとみを大きく開いて見あげた。
──うん。
光のなかに車輪が見えるわ。
明滅する電車のようね。
《ドキドキした》
そしてこの夜が、カナエと会った最後の日となった。
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