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第7章
ネロとパトラッシュが、吹雪のクリスマスの晩に天に召されたように、おれと愛犬のシーズーのシーが、ともに天に昇る近い未来を予感していた。
ある5月の晩、青みを帯びた灰色の夜空の、いくえにも重なる大輪の花のような色づいた雲の中心に、白い満月が浮かんでいた。
日頃食料品を購入するアサノスーパーの広い駐車場を横切り、いつもの散歩道の燻んだ赤ワイン色の垣根付きの舗道に出た。
月明かりの下で、先を歩くシーの白にゴールドの体毛がほのかな輝きを放っている。
シーは、模様のあるグレーの舗道の黄色の視覚障害者誘導用ブロックの上を、短い足で少しお尻を振りながらなぞるように歩いていた。
ふと黄色の視覚障害者誘導用ブロックが、電車の線路に思えた。
するとシーという電気機関車が、線路の上を走りはじめ、突然、黄色の線路が浮かびはじめた。
青みを帯びた灰色の空の白い満月へと線路は続き、おれとシーが乗った電気機関車が、黄色の線路を白い満月に向かって走りはじめる。
ジョバンニやカンパネルラが乗った銀河鉄道のように……
晩ご飯を終え布団に潜ると、すかさずシーが、ベージュの毛布をかけた身体に勢いよく登ってきて、胸の上からいつものようにおれの顔を舐め始めた。
ピンク色の小さな舌で執拗に……
長く続くのはもうわかっている、しばらく好きに舐めさせていると、一瞬、ピンク色の舌が止まって、丸くつぶらなひとみでおれの顔を覗き込んだ。
それからシーは、自分の顔をほんの少しだけ斜めに傾け、おれの顔にすべてを委ねるかのようにそっと乗せた。
びっくりした。
ふたつの顔が、融合するかのように重なり合っている。
──シー!
寝息をたてて、どうやらシーはそのまま寝てしまった。
おれの顔の上で寝ている。
スースーという寝息が、薄暗くわずかに琥珀色に彩られた部屋で、シャボン玉のように飛んで消えた。
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