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「ねぇ覚えてた?ここ。」
工事現場の白い布の前で、今日はじめて彼女と目があった。
「もちろん。」
彼女の視線から逃れるように、工事現場の看板を見つめて、僕はそう短く返した。
この場所は、2年前まで地元では有名な遊園地だった。しかし、老朽化が進んでいたのと、海外企業からの土地の買収で取り壊すことが決まったのが3年前。ようやく最近工事が始まったところだった。
「私、君とここに来る時間が1番好きだった。」
「僕もそうだよ。」
彼女と僕は、幼稚園からの幼なじみだ。小さい頃から、お互いの家族ぐるみでここのプールにくることが、夏の大イベントだった。中高生になるとクラスの仲間数人交えて、彼女と行くこともあった。
高2のとき彼女と付き合うことになって、初めてキスをしたのも、この場所だった。
「今までありがとう。」
唐突に彼女はそう言った。まだ彼女の目を見れない僕は、昔観覧車があった方角を見上げた。取り壊し用の網が張られた観覧車は、夜風に揺られていた。
静かだった。
いつから僕と彼女はすれ違ってしまったのだろう。
付き合って4年。出会って20年目を迎える僕らは、なんでも理解できていると思ってた。でもそれは、理解できているフリで、僕はきっと彼女のことを何も知らなかったんだろう。
「ここの跡地、海外の有名な映画のスポットになるんだって。今度はいい思い出作れると良いね。」
そういうと彼女は、去っていった。僕は最後まで彼女の目を見ることができなかった。
空っぽな工事現場に、僕の呼吸だけが響いた。
ごめんね。
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