一日限りの用心棒

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 ついに俺の出番がやってきた。  同僚たちと薄暗い控え室の中でひたすら出動の日を待ち望んできて、1年近く経つだろうか。  長く待機していたので今朝、雇い主の森本さんと連れ立って外に出て、まばゆい朝の陽光を体いっぱいに浴びたのが新鮮だった。  よく晴れた青空を行き交う小鳥の甲高い鳴き声が、晴れ舞台を迎えたこの高貴な日への祝福に聞こえた。  俺に与えられた職務は、今日一日、体を張って森本さんを守ることだ。  森本さんは、細身の体に撫で肩を乗せた35歳の男性。しゅっと通った鼻筋にかけられた黒縁の眼鏡が知的な印象を醸し出している。  俺が森本さんと出会ったのは、2020年初夏のことだった。  世のため人のため、大勢の仲間たちとひとまとまりで任務を割り当てられた俺たちは、150名ごとのチームでこの広い社会へと飛び出した。  トラックに乗り込んで長距離を移動した先で、ちょうど俺たちのようなチームを雇いたいと探し求めていた森本さんにスカウトされた。  大所帯に属する一介の用心棒であった俺は予想もしなかったが、そのころ世の中は、用心棒を求める気運が世界的に高まっていたらしい。  「骨のあるやつだ」という評価とともに気前よく前払いしてくれた森本さんに報いようと、俺たちは謹んで任務を受諾した。  そうして背筋の伸びる思いで、彼が拠点とする建家へと出向いたのだった。
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