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そんなわけで当初の予定よりもかなり遅れたが、前に並んだ同僚が全員出払い、最前列に並んで夜を3回越した今日、スーツに着替えた森本さんは俺の手を取った。
この1年、過酷な季節に出て行かざるを得なかった同僚も多数いたというのに、麗らかな春の持ち場に当たったのは僥倖に思えた。
玄関口の天井に備え付けられたセンサー式の照明灯が、出立する俺を華々しく照らし出しているようだった。
生まれ育った地でチームの一員となってから長い間、集団行動だったので、1人で仕事を任された俺の胸は否応なしに高鳴った。
森本さんは俺の背中にぴったりくっついたまま、慎重に路地裏のルートを進んでいく。
雇い主からの信頼を実感した俺ははりきって、並み居る敵を体全体で止めていった。道中で乗り込んだ輸送機関では特に活躍できたと自負している。
拠点で控えているときには想像もしなかったが、外は敵であふれかえっていた。
俺の実力の前では大したことがない奴も多いのだが、用心棒に警護を依頼したくなる人々の気持ちが理解できた。
目的地に辿り着いてからも気は抜けなかった。ごろつきというものは、どこにでも入り込むものだ。
正午過ぎ、森本さんが栄養補給をしている間だけは暇を許され、隣で休息をとった。
「それにしても今回の一件は、いつまで尾を引くんだろう」
「本当に。自分の身は自分で守らねばと言っても限度があるよな」
森本さんが同じようにスーツを身にまとった筋肉質の男と話しはじめると、光栄なことに俺は会話の間に入らせてもらえた。
相手の男も、どこか別のチームの出身であろう俺と似たような用心棒を雇っている。
初めて訪れた建物内で、出会う人間はみな同様だった。
森本さんが誰かと相対するとき、俺は前方で同業者と睨み合った。
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