一日限りの用心棒

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 気付けば、外の過酷さに(さら)され続けた一日も終わりかけている。  昨日までの平穏は嵐の前の静けさだったということを、俺は身に沁みて実感していた。  半日を過ごした建物から外に出るころには、朝はあれほど明るかった外の景色が電源を切ったかのように彩度を落としていた。  正直に言ってくたびれていたが、雇い主を無事送り届けるまで俺の任務は終わらない。  行きと同じく大量の人が乗り合わせた輸送機関で最後の務めを果たし、朝に出たきりの拠点へ森本さんと戻った。  俺は薄々気付いていた。  150名もの同僚と派遣された意味、激動の一日を働き抜いて見る影もなく老いた俺のこの姿。  自分の一生はここで終わりなのだ。  全身薄汚れ、皺が目立つ体になり果てたうえ、すっと伸びていた背筋も今ではすっかり折れ曲がってしまった。  玄関口の扉を開けた森本さんは、今日一日行動を共にしてきた俺をお役御免とばかりに引き離した。  そしてそのまま傍らで口を開けている深い奈落に、俺を突き落とした。  声にならない声を漏らしながら着地した俺の下で、馴染みのある感触の物体が下敷きになっていた。  確かめなくてもわかる。これは、前回と前々回に出動して帰ってこなかった同僚たちの(しかばね)だ。  森本さんが去り、センサー式の照明灯が消えると、四方を高い壁に囲まれた狭い空間は真っ暗闇に沈んだ。  視界が閉ざされたのをきっかけに、昼間、社員食堂で俺たち用心棒のことを話題にしていた森本さんの言葉が脳裏によみがえる。 「布マスクはなぁ、洗濯とか面倒だしやっぱ使い捨てが手軽でいいよな。在宅勤務するようになって、数日に一枚でいいわけだし」
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