一日限りの用心棒

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 そう、俺たち不織布マスクは使い捨てだ。  俺の後の今なお期待に胸を弾ませながら待機している同僚数名が掃ければ、次は別のチームが雇い入れられることだろう。  かつての俺のように背筋をぴしっと伸ばした、一点の汚れもなく真っ白でうら若き後進たちが。  1年ぶりに外に出て知ったことだが、昨年の春先から巻き起こった世界的な用心棒不足は、大量の人員投入によって下火になったらしい。  一般人が警備を雇わざるを得なくなったことで社会は大きく揺れたが、その生活様式に人々は馴染みつつある。そう森本さんたちは話していた。  しかも近頃の同業者の中には、一人で何人分もの日数を活躍しとおせるほどの丈夫な肉体を持つ「布マスク」なる者がいるということだ。  実際そいつらとは、今日一日を過ごした森本さんの会社で何度か対峙した。  実力だけでなくそのスタイリッシュな出で立ちは、昔気質(かたぎ)の用心棒であり無骨な俺とはまるでちがっていた。  用心棒など使い捨てで十分だと言っていた森本さんだって、次はそのような腕利きと専属契約することを内心で検討しているかもしれないな。  老いた身には世知辛い現実だが、こうして社会に出た以上、予期せず新しい才能に取って代わられるのは世の常なのだろう。
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