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「忘れたのか。女ばっかのとこへ何度も何度もっ」
思い当たった、と要。とは言え、別に下心があってでは無く単純に注文が多かったからだが。しかし、葵の此の反応に要は己へ何らかの感情はある様だと。
「仕事だろう。其れに俺は、此処へ金を稼ぎに来たんだ……友達は、お前だけで十分だ」
「え……」
葵の膨れっ面へ変化が見えた処で、別れる処へ差し掛かった。昨日と同じく、要は軽い別れの言葉と共に背を向ける。が。
「あっ……あのっ、明日休みだろうっ。何するんだよっ」
そうだ。明日は店主より、十日に二日ある休みのひとつと聞いた。要は此れを利用し、一度師父へ報告も兼ね不確かな情報についても直接話さねばならないと考えていた。葵との僅かな触れ合いから、やはり老師の愛人とは疑わしいのだ。其れに、葵が訊ねた女の件も。
一瞬表情が固くなった要であったが、直ぐに笑って見せる。
「明日は一度國へ帰ろうと思ってる。仲間へ仕事が見つかった事を話したいんでな」
理由としては適当だろう。葵は、少し気落ちした様な表情を浮かべるが。
「えっ、と……でも、又こっち来るんだろう」
「ああ。次出勤の夕方迄には」
此れに、途端明るくなる葵の表情。
「じゃあさ、昼間暇なら遊ぼうぜ。奢ってやるよ」
そんな上機嫌な言葉も。此の時要は、葵の素直で純粋な笑顔に一瞬見入ってしまったのだが。
「ああ。楽しみにしている……じゃあな」
同じく、笑顔を作って答える要。早々に背を向け足を進める。其の表情に、笑顔は消えていた。
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