其の力は。

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 未だ山の轟きは続いて居るが、おさまる気配も確かに感じるのだ。耐えてくれるだろうか。颯真は、山を見上げ要の力を探る。だが、やはり其れを感じ取れない。勿論、棕櫚の方も。此れが意味するのは、力が極度に消耗された状態であるだけか、其れとも。背を追った兄弟子を案じる思いは、颯真も同じだ。  颯真は、拳を握り締めると葵を抱えた。何時もの如く、米俵扱い。驚き、狼狽えるも葵は颯真の答えに気を引き締めた。 「……二人の戦闘が続く様なら、直ぐに退くぞ」  込み上げる涙を懸命に抑える葵。 「有り難う……っ」  見張りは、先程の地鳴りと揺れに散った。警備等、無いも同じ。戦闘の煩わしさは無いが、颯真の表情には不安と焦りが。山の奥へ近付くと言うのに、やはり要の力も棕櫚の力も感じ無いのだ。無意識に速く、葵を担いでいるのも忘れて結構な動きとなってしまう。流石の葵も、声を上げずにいられなかったのだが。  随分奥迄来た処で、漸く其の気配が感じ取られた。しかし、其れは本当に極僅か。力の持たない赤ん坊程に落ち込んでいたのだ。其れでも、其れを頼りに姿を探す。懸命に、慎重に探り、漸く。 「――兄者っ」  其の姿が、見開いた瞳に映ったのだ。其処は、広く何も無い空間となっていたから。其の中央で、互いに膝を地へ付けて微動だにしない。呼吸はしているのか、落ち着いただけなのか。葵を下ろしてやると、葵が駆け出す。勿論颯真も。 「要っ、老師っ」  足場も酷くなった地を行く葵が叫ぶ。しかし、まだ反応がないのだ。距離を縮め、先ず駆け寄ったのは。 「要っ……要っ」  一点を見詰め放心したかの様な要を、葵が涙浮かべて腕に包む。名を呼び、腕に力を込めるも暫し反応は無かった。が、徐に上がった手が葵の背へ触れたのだ。
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