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「要……」
気が付き、其の顔を覗き込む葵。暫く、表情すらつくれぬ要ではあったが。
「死んでは、いないぞ……」
声は弱々しく掠れたが、僅かに微笑む顔。葵は更に涙を浮かべる。
「要……っ、要ぇ……っ」
あまりの光景に、立ち尽くすばかりであった颯真も漸く我に返り駆け寄った。
「兄者、直ぐに手当てを。俺が連れて行く」
要は、颯真の声へは答えられなかった。声を出すのも、今は酷い疲労となる程。だが、其れでも信頼する弟弟子へも微笑んで。
そんな中で、何かが動く音。土へ何かが落ちた様な其れは、辛うじて膝を付いていた棕櫚が倒れ込んだ音であった。そちらへ顔を向ける葵へ。
「行って、やれ……」
要の声。要の有り様へ、迷う葵だったが、軽く肩を叩いてやった颯真。
「兄者の処置に掛かる。死なせねぇから……行って来い」
葵は、其の言葉へ頷き徐に立ち上がった。一歩、一歩と棕櫚の元へ。倒れ込んだ棕櫚は、土へ顔をめり込ませていた。其の身を、戸惑いながらも抱き起こした葵。仰向けた其の顔と体へは、要との戦いで負った傷、凍傷も。生きているのか、暫く其の顔をじっと見詰めていた葵だが。
「あお、い……か……」
声が聞こえた。要よりも弱々しく、掠れた声。葵は、思わず棕櫚を抱える腕に力が籠った。
「はい……老師、葵に御座います……」
其の声に、笑みを浮かべる棕櫚。
「戦とは、生き、る……気で、無いと……勝てない、よ、うだ……」
「老師……」
「けど……彼奴、に会える……やっと……」
其れは苦し気である声なのに、表情は穏やかで、幸せそうで。葵は、棕櫚を抱き締めた。
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