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告げられた礼に、颯真は言葉を返せなかったが。
「兄者の治療は一先ず済んだ。流石に兄者と、お前等二人一気には下ろせない。暫く待ってられるか」
事務的な言葉だけを返して。葵は、一先ず要が無事であると安堵した。只、重体である身には代わり無い。颯真へ、強く頷くと棕櫚を背負い立ち上がる葵。
「大丈夫。俺が老師を担いで下りるさ……一応、俺も一人前の男だ。あんた等程じゃなくても、女子供じゃな――」
葵は、力を込めた己の身に何故か変化を感じた。どういう事だろうかと、何故か此の瞬間人を背負っている重みに疲労感が湧かない。
暫し固まる葵へ、颯真も其の異変に気が付く。勿論、要も。
「お前、力を持たないんじゃ無かったのか」
等と問う颯真へ、戸惑う葵。要が徐に口を開いた。
「棕櫚殿の、力を感じる……」
まだ極度の疲労故か、掠れながらも葵へ答えを示した要。葵は、思わず背負う棕櫚へ顔を向けようとするが。
「ど、どういう……」
棕櫚を背に感じるのは、依然変わらぬ力無い重み。が、葵は掌に感じた熱と光を思い起こす。まさか、あの時に。
人に備わる此の不思議な力については、追及する事も暗黙に禁忌とされ未だ解明されていない事が多い。故に断言は出来ぬが、力を他者へ譲る事は、該当者の生命力を削る事となるのだろうと颯真が考察した。葵は、棕櫚の最期の言葉を思い出す。己の中に、二つの血と一つの力が存在すると。
「俺、親父が二人になったよ――」
言いながら浮かべた笑みには、一筋の涙が溢れていた。
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