其の力は。

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「――老師。お仕事は」  國の指導者なる者の背へ、呼び止める声。煩わしげに振り返ったのは。 「これ見よがしに、其の呼び方は止めろと言っただろう。颯真」  要の不愉快そうな声に、颯真も決して愉快な表情ではない。溜め息混じりに、呆れる様子。 「勘弁してくれよ……流石に兄者がやらないと片付かないんだからさぁ」  現在、師父として隊員の指導役を任される颯真は、そう言いながら上司を嗜めた。要は無表情だが、其れはとても不機嫌そう。不本意ではあるが、己の執務室へと踵を返した。颯真は、まだ要が信用出来ず其の背を見張っている。が、ふと振り返った要。 「なら、お前が葵へ告げに行ってくれ。店へ向かうのは、閉店後位になってしまう」  葵は、現在水の國の民として居酒屋を営んでいるのだ。どうやら、仕事を抜け出し葵へ会いにいくつもりだった様子。  此の二人に都合よく使われるのも、もう生活の一部となっている颯真。承知したと、言葉無く背を向けたが。 「そう言えば、祝言は挙げないのか」  思い出した様に出た、聞きたかった事。法の改正等により、要と葵は家庭を持ちはしているが其の節目らしいものが無い。処が。 「互いに、金が惜しいとの結論に達した」  そうあっさり答えて、部屋へ向かう背中。颯真は、表情をひきつらせた。そう言えば、どちらも結構な守銭奴であったと。  部屋で、諦めと共に執務の為に腰を下ろした要。溜め息の後に、掌に現れる美しい雪の結晶で出来た蝶。其れを、窓へ向けて放ってやると其れは城の外へ。  蝶が向かうのは。 「――やっぱり夜中かぁ……」
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