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Fragment of memory
はぁ……。
もう私のことをなんて忘れてしまったのかしら?
机の上のノートを閉じて、ため息をひとつ。
私が吐いた息の分だけ、目の前に心のモヤがタバコの煙のように白くユラユラと浮かんだ。
そして音も無くユルユルと解けると、うろこ雲のようにゆっくりと流れて消えていった。
雲の残滓を追うように、物憂げな目を部屋の窓に向けていくと、外では冷たい風が鳴いているのが見えた。
次第に雲が昏くなってきた。このままでは近いうちに雪が降るだろう。
指輪を嵌めた手が、知らぬうちに小刻みに震えていた。
こんな日に掃除なんてやりたくは無かったけれど、あのまま放置していたら取り返しがつかなくなっていた。
それに……気が進まないが、私にはまだやる事は残っているから。
私は――私の意思が変わらぬうちに――最後の覚悟を決めた。
重くなった身体をどうにか椅子から立ち上げると、クローズラックにあったコートを片手に、マンションの自室を後にした。
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