不要不急なものだから

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もちろん、覚えてる。忘れるはずがない。 俺と彼女は一心同体、いつだって一緒だった。彼女を背負ってライブハウスへ足を運び、時間の許す限り仲間たちとセッションをしたもんだ。1年前のあの日だって、少し汗臭いあの会場で、俺たちの音楽をみんなに届けるはずだった。 こんなご時世だからどこにも出かけてない。 家でできるだけ済ませるようにはしてるけど、ステイホームでも、できることとできないことがある。俺の家はマンションだから尚更。防音室とかがあればいいが、あいにくそんな金はない。 お前のこと、覚えてるよ? だけど、世間では不要不急みたいだ。 6本の弦も錆びたまま、ボディも拭いてやらず、ほったらかしで本当にごめん。 全く練習できてないから、あのときの声や指さばきは期待しないで欲しいけど、お前とまたゆっくり語り尽くせる日を心待ちにしている。 覚えてるから。 だから、もう少し待っててくれ。 【完】
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