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「寺尾も同じなんじゃないの。……まぁ、寺尾と俺はもちろん血も何も繋がってないし、親子でも親戚でもない特殊な関係だから、晴瑠たちと全部同じって訳じゃないだろうけど」
少しだけ伏せられる、碧惟の長い睫毛。綺麗な横顔に、淋しげに映える。
「ううん、違わない」
僕の言葉に、碧惟は伏せていた視線を僕に向けた。
「確かに血縁関係はないかもしれないけど、碧惟と寺尾さんが何も繋がってないなんてことは絶対ない。だって寺尾さんも碧惟も、凄くお互いを思い合ってるから」
「……」
ここに来たばかりの頃に見せてもらったファイルのこと、胸のポケットに大事そうにしまっている幼い碧惟の写真。とても綺麗に、大切に仕舞われていた、碧惟の幼い頃の服。
寺尾さんが碧惟をどれだけ大切に思っているか。
そこに血の繋がりなんて、きっと意味を持たない。
「仕事ってだけじゃ、あんな風に誰かのことを思ったり大切に出来ないと思う。碧惟と寺尾さんは、きっと血の繋がり以上のもので繋がってる。何も繋がってないなんて、そんなことは絶対にないよ」
「……そう」
何とかこの気持ちを伝えたくて、必死に話し続けた僕に対して、碧惟の返事の素っ気なさはいつも以上だった。
……でも、その目がとても優しいこと。
それだけで、碧惟はちゃんとわかってくれていて、それ以上の言葉はいらないのだと思った。
「……ずっと自分さえいなければいいって」
「……っ」
「自分さえ生まれてこなければ、母親も、寺尾も、自分の幸せのために生きられたはずだって思ってた」
それは違う!と言いかけた僕の勢いの良い唇を、碧惟の長い人差し指が制する。
「わかってるよ、ちゃんと。……そんで、そう思えたのは晴瑠のおかげ」
僕の唇に指先を当てたまま、碧惟は穏やかな表情で微笑う。
「誰かを好きになるとか、ましてや好きになってもらうとか。自分には一生無理だって思ってた。自分がそんな価値のある人間だって、どうしても思えなかったから」
――でも、こんなαの俺だって、晴瑠に逢えた。番になれた。
「俺は、晴瑠に救われたんだよ」
……そんなの。
「……そんなの、僕だって……」
ほらまたすぐ泣きそうになる。大人の癖にほんと泣き虫、そう言って碧惟は僕の目尻を親指で拭った。
そのまま頬を滑る掌。僕たちは何かを伝え合うように短く唇を重ねた。
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