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「俺もこういうの全然わかんなくて。甘崎なら多少詳しいだろって訊いたら『そういうのは専門外なんで自分で調べて』って何か急に機嫌悪くなった。代わりに橘がいくつか持ってきてくれたんだけど。それがこれ」 「……」 その光景がありありと浮かぶ。空港で見た氷の女王みたいな甘崎さんの表情が頭を過ぎり、なんだか僕の体温も心なしか下がってしまった。背中の辺りがぞくぞくと寒い。 「けど、それを見てた甘崎が後ろから『何そのセンスのない式場のラインナップ!ここは料理の評判があんまり良くないし、ここのホテルはアクセスが悪いの!』とか言い出して」 「うん……?」 「で、『もうほんといい加減にして!何で僕がここまで!!』って頼んでもないのに怒りながら出してきたのがこっち」 そう言って碧惟が出したもう一通の同じサイズの封筒。 中には3つの式場のパンフレットが入っていた。 「わぁ……」 思わず感嘆の息が漏れたのは、そのどれもが一目で心惹かれる、とても落ちついた感じの雰囲気の良い式場だったからだ。 邸宅風のところを貸し切って式を挙げるゲストハウスウェディングのものばかりで、1日1組限定と書かれているところもあった。 既に甘崎さんが問い合わせまでしてくれているのか、最短でいつ式を挙げることが出来るのかという予約状況や、その他にも料理がどう、スタッフがどう、見学会の日程まで細かく書かれた付箋が貼られている。 その甘崎さんの気遣いの行き届いた仕事ぶりや、センスの良さにただただ感心しつつ、それらを眺めていると、その中の1つに目が留まった。 緑の多い場所に立つ、洋館風の邸宅。物静かで雰囲気のあるアンティークな感じや、花々に囲まれた広いガーデンがとても美しくて、異国風のテイストなのにどこか懐かしいような気持ちになる。 寺尾さんが好きそうだな。 思わず顔が綻んで、それから、 ――きっとここなら悠雨も好きって言いそう。 思わずそんなことを考えてしまった自分の頭の中を、慌てて打ち消した。 「ここ気になる?」 「え!?……あぁ、……うん……」 僕がぼんやりしている内に、いつの間にか取り出していたノートパソコンのキーボードを、碧惟は手慣れた手付きで叩いた。 「寺尾が好きそう」 「うん……。僕も思った」 心に過るやましさのようなもやもやを悟られないよう、そっと悠雨の名を心の中に押し込める。 碧惟が検索したパソコンの画面いっぱいに、さっきの式場が写っているのが見えた。 「……すごく綺麗なとこだね」 パソコンを眺める碧惟に顔を寄せ、僕もそれを眺める。 「ここ下見に行ってみる?」 「うん」 僕の返事を待って碧惟はパソコンにさらに何かをカタカタと打ち込んで行く。 「他に気になるとこあった?」 「どれも凄く素敵だけど、やっぱり今見たところが一番好きかもしれない。碧惟は?」 「俺も同意見」 一瞬でも悠雨が過った胸の痛みに碧惟が気付きませんように。そんなことを思いながら僕は、碧惟の返事に笑顔を返した。
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