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「無理してない?」
「え?」
ふいに降ってきた碧惟の質問に、思わず顔を上げる。
「寺尾はあぁ言ってるけど、こんなのは当人同士の自由だから。晴瑠が気乗りしないなら別に……」
「そんなことない!むしろ僕がこんな、結婚式なんてだいそれたことしていいのかなって……それは思ってるけど……」
……ぼんやりしていて、変だと思われたのかもしれない。碧惟はそんなところがとても鋭い。
必死に首を振り否定した僕を見て、碧惟は呆れたように小さく笑い、「そう。お前らしいな」と零した。
「むしろ俺の方がこんなの全然向かないから、むず痒くて投げ出したくなってるけど」
「え!?そうなの!? ……っ、でも、碧惟が嫌ならそれこそ無理しなくても……」
心配になって碧惟を見返せば、ちゅ、と頬に唇が触れた。
「……!?」
いつもこのゲリラ豪雨みたいな、タイミングの掴めなさに翻弄されてしまう。
頬を押さえ固まる僕に、碧惟はお構いなしのポーカーフェイスだ。
「でも、晴瑠のウェディング姿は見てみたいと思わなくもない」
「う……」
決して素直な表現ではないけれど、僕の頬は熟れた林檎みたいに赤くなる。つんとしながら再びパソコンに目を向ける碧惟の耳も、ほんのり赤くなっていた。
碧惟が好き。凄く好き。
……だから、悠雨を心から追い出せない、追い出さない自分に後ろ暗さを感じてしまう。これはきっと、僕が一生背負っていくものだ。
碧惟には、余計な心配をかけないように。
その横顔に、悠雨の面影を感じて、僕は静かに視線を伏せた。
「晴瑠」
「ん?」
「高野悠雨の話をしてもいい?」
「……っ」
突然の碧惟の言葉に、思わず僕は返事に詰まってしまった。心の中がどこかで漏れ出してしまっていたのだろうか。
明らかに動揺した様子で、僕は碧惟に視線を向けた。
でも碧惟は、さっきと変わらない、とても穏やかな表情をしている。
だから僕は、余計にどんな顔をしていたらいいのかわからなくなる。
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