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「……面影は、ある……と思う……」
初めて碧惟に逢った時から、それは感じていた。だから碧惟を好きになった訳じゃなくても。
その答え自体、悪いことのような気がして、僕の声はとても心許なく響いた。
「そう」
碧惟はいつものように、短く答える。
でもその表情は変わらず穏やかなままだ。
「……でも性格は全然似てない。悠雨はのんびりしていて、穏やかで、掴みどころがなくて、自由で――」
「……喧嘩売ってる?」
「趣味も、好きな服装も、好きな食べものも、」
……あぁ、そうだ。
忘れたことなんてないのに。
浮かぶのは、優しい悠雨の記憶。
そして目の前には、穏やかな顔をした碧惟がいる。
「声も、語ってた夢も――」
――僕の愛し方も。
「全然、似てない……」
なぜか涙がぽろぽろと溢れて、止まらなくなった。
悲しいんじゃない。苦しいんじゃない。でも少し切ない。
それから、愛しい。
僕は、碧惟も、悠雨も。どっちもとても愛おしくて、涙が止まらないのだ。
伸びてきた碧惟の腕が僕を捕まえて、その胸の中にぎゅっと抱き留めていた。
「……想っていればいい。好きなだけ。隠す必要もない。別に投げやりで言ってるんじゃない。……悠雨もきっと、晴瑠の一部だから」
「……っ」
――悠雨も僕の一部。
その言葉がすとんと胸に落ちて、代わりに涙はもっと堰を切ったように溢れてきた。
「……っ、ぅ……」
声も涙も抑えきれなくなった僕を、あやすように碧惟は抱き締め続けてくれる。
「……晴瑠はきっと、忘れるのも忘れないのも、どっちも罪悪感で苦しいんだろうなって思ってたから」
だから別に苦しまなくていい。
碧惟は優しい声で、そう言った。
「俺は晴瑠が好き」
――僕は晴瑠が好きだよ。
記憶の中の悠雨と、目の前の碧惟。
2人は重なっても、重ならない。
記憶の中の悠雨は、いつでも優しい。
目の前の碧惟は、僕に今を生きていることを教えてくれる。
愛しくて、愛しくて、張り裂けそうになる。
「僕も……好き。凄く、大好き」
瞬きと共に溢れ出した涙が更に頬を濡らす。涙声で紡いだ『好き』は真っ直ぐ、目の前の人物に注がれていた。
重なる唇が温かいこと。
それが嬉しくて、もっと碧惟を確かめたくて。
僕たちは、何度も何度もそのままキスを交わした。
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