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二杯目の紅茶は碧惟が淹れ直してくれた。
「あれだけ泣いたら身体中の水分が出ていったんじゃないの」
「……うん、そうかも」
呆れたように口元で笑う碧惟の隣で、僕は鼻を啜りながら温かな紅茶を口に含む。
「そうだ。言い忘れてたけど、明日は休み」
「そうなの?……そっか、最近仕事詰めだったからゆっくりできるね」
一応の休日で家にいても、大抵書斎で仕事をしている碧惟の口から休みという言葉を聞いたのは久しぶりだ。
たまの休みはゆっくり休んで欲しい。
近頃は喘息なんかもあまり出ていないみたいだったけれど、それでも休息は大切だ。
朝はゆっくりして、昼からはお母さんの病院に行ったりするのかな。
気兼ねなく休めるように、直緒を近くの公園に連れていこうかな、などとぼんやり考えていた僕を、碧惟がじっと見る。
「?」
「……直緒はどこに行くと喜ぶと思う?」
「へ?」
照れのせいか心なし声が小さく、しかも早くて低かったせいで、僕は思わず間の抜けた声を返していた。
「だから、直緒はどこに行くのが好きかって聞いてるの」
「……直緒を遊びに連れて行ってくれるの?」
「他にある?」
碧惟の耳は僕に「好き」と言った時よりも真っ赤になっていた。
来た頃に比べたら、碧惟と直緒はだいぶ打ち解けていると思うけれど、それでも碧惟の仕事が忙しいこともあって、こんな風に直緒を遊びに誘ってくれるのは初めてのことだった。
「碧惟はゆっくりしなくていいの?」
「そこまでじじぃじゃない」
「お母さんの病院は?」
「今日行ってきた」
ほんとにいいの?と訊けば、良くないなら言わない、と至極碧惟らしい答えが返って来る。
「それは直緒きっと、凄く凄く喜ぶよ」
明日の朝出かけることを伝えた時の直緒のリアクションを想像すると、思わず顔が綻んでしまった。
「だから行き先を考えてって相談してるんだけど」
「どこでも嬉しいと思うな。それこそ、近所の公園でも」
「それじゃダメ。……晴瑠の友達の、あのでかい男」
そう言って碧惟は形の良い眉を潜めた。
「……? 琉大のこと?」
「直緒と公園行ったんだろ?……そこで父親に間違われたって」
機嫌を損ねたような口ぶりで話す碧惟は、先日琉大が直緒を大きな遊具のある公園に連れて行ってくれたことを耳にしたのだろう。
もちろん僕も一緒に行ったけれど、公園なんかで肩車や身体を使った遊びを全力で一緒にしている成人男性がいれば、誰でもその人を父親だと思うのは仕方のないことだと思う。
「カッコいいパパがいていいね」、と直緒が知らない人に話しかけられていたことを思い出した。
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