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「うん……。でも琉大と公園にいれば、知らない人に親子だって思われてしまうのは仕方ないかなって」
その話を直緒が無邪気に話しているのを聞いたのだろう。碧惟は何も悪くないし、もし琉大じゃなくて碧惟と直緒が一緒にいたとしても、みんなそっちを親子だと思うはずだ。
「けど気に入らない」
ポーカーフェイスながらもぷい、とむくれる碧惟が何だか可愛くて、笑ってしまう。
2人の関係もこれから少しずつ、時間をかけて作られていくのだろうけれど。
それでも碧惟が、こんな風に琉大にやきもちを妬いてくれているのは意外で、それをなんだか嬉しいと思ってしまった。
「直緒には父親が3人もいて、幸せだね」
思わず笑顔で溢した言葉に、碧惟が視線を向ける。
「……直緒の父親は3人かも知れないけど」
そのまま綺麗な面差しがぐい、と迫ってくる。
「晴瑠の番は1人だから」
「うん……、……っ」
もちろんだよ、そう言い終わる前に唇を塞がれてしまった。
そのまま、食むように何度も何度も口付けられる。
「ん……っ」
潤んだ瞳で碧惟を見つめ返す僕の、身体の奥から。じわじわと体温が上がっていくのがわかる。
「じゃあ明日は大きな遊具のある公園、ってことでいい?」
「うん……」
今そんな話をされても、正直頭がぽぅっとしてあんまり入ってこない。
番になってから、ヒートじゃなくてもキス1つで簡単にこうなってしまうのだ。
碧惟の指が、濡れた唇を辿る。
背中に弱い電流のような何かが走って、その期待値の大きさに少し怖くなる。
「……出かけるなら、明日早いよね。碧惟ももう休んだ方がいい?」
恥ずかしさと相まって、なけなしの理性でブレーキを踏んだ僕を、碧惟はいつものポーカーフェイスで眺めていた。でもその瞳の奥に、艶を含んだ熱がゆらりと揺れている。
「それ本気で言ってる?どれだけお前に触れて無いと思ってんの」
「……でも、キスなら毎朝」
「へぇ、あんなんで満足出来てんだ」
「う……」
碧惟の長い指が顎に添えられ、俯こうとした僕を優しく制した。
「俺は、全然足りない」
魔法にかけられたみたいに、その壮絶な色香に動けなくなった。
ふわりと、碧惟の香りが濃くなる。
僕にしか感じることのない、αの香り。
僕の中の激しい渦のような熱を呼び覚ます、甘い甘い匂い。
あぁ、僕も碧惟にこんな激しい情欲を感じさせているのだろうか。
近づく香りに、瞳を閉じる。
触れた唇から、全身へと愛おしさが広がっていく。
明日、早起きしてお弁当を作って――……
頭の片隅に過ったそんなことすら、碧惟から与えられる熱に溶かされ、霞みたいに消えていった。
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