3443人が本棚に入れています
本棚に追加
アーケード状になっている遊園地の入口にはお土産もののお店やキャンディショップ、ポップコーンのワゴンなんかが並んでいて、まだ着いたばかりだというのにそこを抜ける頃には、直緒の頭にはくまの耳がついた帽子、首にはポップコーンの入った電車柄のバケツ、右手にはうさぎの王子様のぬいぐるみ、左腕にはきらきら光る星のついた腕輪が輝いていた。
「あれいる?」
「うん!」
店の前を通りかがる度、そのやりとりをひたすら繰り返す2人に、
「ちょっと待って、荷物が増えてくだけだから!これ以上は帰りにしよう!」
とブレーキをかけるのが大変だった。僕が止めなければ、乗り物の1つも乗らない内から2人はもっと大変なことになっていたかもしれない。
直緒を挟むようにして碧惟と3人、手を繋ぎながら歩く。
ポップコーンのバケツは僕の首。
直緒の水筒や着替えなんかが入っている僕の荷物は、碧惟が持ってくれていた。
周りを見れば仲が良さげに笑い合う家族連れの人たちがたくさんいて、僕たちも同じように見えているのかな、と思えば何だか嬉しくて胸がざわざわする。
「……僕、直緒と一緒にこんな場所に来たのは初めてかもしれない」
「そう?」
思わず口にした僕に、直緒の向こう側から碧惟が視線を向けるのがわかった。
「うん。直緒と2人でいた頃はそんな余裕なんてとてもなかったし。高野さんに直緒だけ何度か連れて行って貰ったことはあったんだけど」
「……」
「いつか僕も一緒に行きたいな、って思っていたから、嬉しい。それがこんな風に、碧惟も一緒にいてくれるから、尚更嬉しくて」
ありがとう、と碧惟に言えば、手を繋いだ先の直緒も、
「あおい、ありがと。はるとあおいがいっしょでたのしい」
にこにこ笑いながら碧惟を見上げていた。
「……別に」
あ、これは嬉しさが一周回って無表情になった顔だな。そんなこともわかるようになった。形の良い耳がほんのり赤い。
「あおいのおみみ、りんごのいろしてる」
直緒が笑えば、空いた方の碧惟の掌がぐしゃぐしゃと直緒の柔らかな髪を撫でた。
幸せだな。
そんな言葉が自然に浮かんで、笑顔が溢れてしまう。
ふいに視線を寄せた建物のガラスに写る僕たちの姿は、ちゃんと幸せな家族に見えて、ますます胸が温かくなった。
最初のコメントを投稿しよう!