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「高野桜とはあれから何もない?」
一番先に訪れた動物園があるゾーン。
小動物と戯れる直緒を眺めながら、ふいに碧惟が溢した。
「あ……。うん、碧惟の家に行ってからは、全然……」
ずっと気にはなっていたけれど、あの後高野さんからは、全く音沙汰がない。
「碧惟や寺尾さん、それから庄太郎さんが守ってくれているからだって、寺尾さんが……」
「まぁそんなとこ」
何となくその辺りの話題は気軽に出してはいけない気がして、ずっと訊ねるタイミングを見失っていた。
「碧惟や寺尾さんは大丈夫なの?その、何か言って来られたりだとか……」
あんなに直緒に執着して話も通じなかった人が、あっさり引き下がるとも思えないのだ。
「時々脅迫めいたおかしな手紙が届いたり、変な人間が家の周りをうろついてたりしたこともあったけど、その辺は即刻対応してるから大丈夫」
「え!?そんなことがあったの!?」
……全く知らなかった。
そんなこと、碧惟も寺尾さんも、顔にも口にも出さなかったから。
「晴瑠にも直緒にもあんまり外に出るなって言ったりした時期があっただろ。あの頃は窮屈な思いをさせたと思うけど」
碧惟の視線は、すぐ目の前で動物たちを前にきゃっきゃとはしゃぐ直緒に向けられているのに、どこか遠い。
「今はようやく大人しくなったみたい。体調がおかしくなって、家から出なくなってるって聞いた」
「そう……」
碧惟の話を聞きながら、高野さんのいつも寸分の隙もなかった、ピンとした姿勢の着物姿を思い出した。
悠雨を失って、それから、結果的に直緒にも会えなくなって。
僕から直緒を奪おうとしたことは今でもとても怖いと思っている。けれど、塞ぎこんでいると言う碧惟の言葉に、高野さんも今淋しいのかもしれないと思えば、どこか胸が痛んだ。
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