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「違うって言ってるじゃん!」 「……そっか。なら、ごめん」  何で謝るんだ。バミリに引っかかり、動けなくなったわけではない。トゲトゲしさを隠さない梨加を察し、土田は黙ってスタッフチームの元へと戻っていった。  〈柚子〉のステップに合わせ照明チームがピンスポットを当て、音響チームがBGMを流す。 (なめてた)  昨日まで、通常の照明下で出来ていた動きを、梨加は出来なくなっていた。 (舞台、なめてた……)  この春、梨加を含む1年生が入部し、桐明高等学校演劇部は、総勢24名の大所帯となった。受験で3年が引退し、2年が指揮をとっている。  演出のミントは、キャスト9名のうち4名をオーディションで1年から選んだ。梨加含め、未経験者ばかりだ。 「少しずつ慣れていけばいいから。それにリカちゃんは、だし。演技は……、こっちで何とかするから」  役を得た喜びも、緊張感で覆い尽くされた。  160センチと長身で髪の短い梨加は、ボーイッシュな印象を与えやすい。  ところが、仮試着で衣装スタッフが用意したマイクロミニのワンピースを着ると、長い脚が際立った。  ライムグリーンの化繊素材セミロングのウイッグを被って大きな瞳をのぞかせば、初々しいアイドルへと変身した。 「リカちゃん、お人形さんみたい!!」  同学年の女子部員は作業の手を止め、大はしゃぎした。男子部員が喉をごくりと鳴らすのを、梨加は気付いていた。 (やっぱり私って可愛いな)
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