モロク

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モロク

様々な悪事を重ねた私はだんだんと行き詰まり、 とうとう魔術にでも頼るしかなくなった。 幸い、その方面に詳しい仲間がいたので、 何とか魔王を呼び出すことに成功した。 モロクはとても悪魔とは思えない、 優しそうな少女の姿で現れた。 母性的な微笑みを浮かべて(たたず)む彼女に、 私はさっそく依頼を切り出した。 『絶対にアシがつかない毒薬を頼む! 人身売買がバレそうなので、証人を消したい』 しかし彼女は、つれない態度だった。 『残念ながら貴方は不勉強のようね。 薬品に詳しいのは、従妹(いとこ)のモラクスの方よ。 あの子は白魔術系だから、お話を受けないと思うけど』 1925f84e-d86b-412b-be52-de3c709806b0 私は苛立(いらだ)ち、要求を言いつのった。 『おいおい、苦労して呼び出したんだ! お前だって悪魔には違いないんだろう!? そうだ、商品には子供もいるから生贄(いけにえ)も出せるぞ!』 彼女は初めて、悪魔らしい凄みのある笑みを浮かべた。 『まあ、人間は皆そうなんだけど。 本当はね……私の(かて)になったのは、 子供達を(しいた)げる大人の方だったのよ』 愛らしかった彼女の姿は、 見る()に恐ろしく変貌(へんぼう)を遂げてゆき、 私が最期(さいご)の時に聞いたのは、 血も凍るような自分自身の悲鳴だった。 モラクス: ソロモン王が使役した、72大悪魔の中の一柱(ひとはしら)。 天文学や薬草学、鉱物学についての知識を与える。 モロク: 古代中東の神で、後に子供の生贄を求める悪魔とされた。 悪魔モラクスの原型になったといわれる。
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