2年後の返事

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ふと窓に目をやる卓。 「やべっ!日が暮れちゃうよ?誕生日富士見に行こうよ!」 「あっ!そうだったね」 慌てて立ち上がったもんだから、せっかく荷造りに分けて畳んだ洋服の山を蹴り崩してしまった。 「ったくぅ笑子、大丈夫かあ?俺2年帰って来れないんだよ?そのドジ心配」 と言ってクシャっと笑って左手を差し伸べてくれた。 玄関を出てマンションの前の土手で手を引いてくれる卓の背中に、大丈夫なわけない!悲しいし、寂しいし、不安だし、怖いし、どうしていいかわかんない!と吐き捨てたかった。でも言えない…。困らせたくないもん。 河川敷に降りると、夕陽と私達の間では少年野球チームが片付けをしている。その横を犬の散歩をしている人がちらほら通り過ぎている。 土手に座り見るその景色は影絵の様に見えて、その先にはオレンジの中に浮かぶ富士山のシルエット。 3年前、卓の誕生日に二人で住む家を決めた。今の家を決めたのは、この影富士が綺麗だったから。それから毎年必ず見ようねと約束をしていた。来年もその次も一人で見なきゃならない。今年の影富士は去年の影富士と同じに見えない。 だって、景色って見る時の気持ちで変わる物だから…。
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