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「ねえ、覚えてる?二人で初めて見た映画」
リビングは深いグリーンのカーテンを浅葱色に変えるほどに強く西日が射し込んでいる。
その日差しは卓の栗色の髪の縁取りを薄くして顔の輪郭までをぼやかせていた。その光がまるで卓を一枚の絵画の中にいる様に遠くに感じさせていた。
一緒に住んでる彼、卓のニューヨーク赴任の準備をしている姿を見てた時、ポツリと出た言葉。 私はぼんやりとその答えを待っていた。
卓は自分のデスクに文房具を広げて、要るもの要らないものと分けている。ボールペンに張り付いてしまった付箋を剥がしながら面倒臭そうに。
「これプラスチックのゴミでいいんだよね?」ボールペンを掲げて卓が私を呼び起こすかの様に聞いている。
「えっ、どれ? ああそうだよ」
私は積み上げた洋服の山を跨ぎながら覗きこみ答えた。
「結構溜まってるもんだな3年もいると」とぶつぶつ言っている。
「だね」少し悲しくなって短い返事をした。
「で?ごめん笑子、その映画がどうした?」
「ん?聞いててみたかったの。あの映画のエンドロール見ながら私達何を言ったか覚えているかなぁって…」
ボールペンを持ったまま天井を見上げ少し考えた後「わりっ、忘れた!」と顔を戻し苦笑いをしている。
「だよね」思った通りの返事で悲しいけど、うっすら笑みが溢れてしまった。
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