闇を描く君

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 こいつは小説家を目指していて、早朝のバイト以外の時間は日がな一日パソコンの前に座って文字を打っている。俺は本をあまり読まないので詳しくは知らないけれど、なんでも純文学というものを書いているらしく、文章にこだわるあまり、そうすらすらと書けるものではないらしい。執筆に行き詰まっては苦しそうにしているのをよく見かけて心配になる。だがそんな時、あいつはいつもいろんなものの観察を始めるのだ。空だったり、風だったり、はたまた人の言動だったり。  そして今日は、暗闇を。ほとんど何も見えないものを観察するのに意味があるのかと思いつつも、俺は曖昧に相づちを打った。だが、やつは目ざとくこちらの心中を察して言う。 「あ、今、何も見えないだろって思ったろ?」  ぎくりとする俺に、あいつはしたり顔で違うんだなぁ、とつぶやく。
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