闇を描く君

4/9
前へ
/9ページ
次へ
「暗闇ってただ真っ黒なだけじゃなくて、ちょっと青みがかってたり、その中で蠢くものの輪郭が見えたりするんだよ。何にも見えないようで、実は案外多くの表情を持ってるんだ。見る人の心情によって見え方が違うこともあってさ。ただ真っ暗って一言でまとめるより、その闇が持ついろんな顔があるってことを俺は表現したいんだよね」  言葉を紡げば紡ぐほどいきいきとしていくあいつの姿を見ながら、こういう時饒舌になるのもまた可愛いんだよなぁとしみじみ思ってしまう。こちらの反応も気にせず、あいつは夢中になって話し続ける。 「それに闇の中の光は面白いんだよ~。浮かび上がる光の美しさとか、 ちらつき加減で全然色が変わるし、明るいことへの尊さが感じられて俺は」  好きなのよ、と最後の言葉に儚げな微笑みを乗せてつぶやく。どきりとした心を隠しつつ、ふーんと何でもないように振る舞う。 「ちょっと見てみてよ」  そう言ってあいつは立ち上がり、電気を消しにスイッチの方に歩いていった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加