闇を描く君

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 電気のついていない部屋で、キーボードを叩く音だけが暗闇の中に浮かび上がっていた。部屋の真ん中、ローテーブルの上のノートパソコンに向かって無言で手を動かしているそいつは、俺のことなんか目もくれないでブルーライトの光を顔に浴びながら、時折食い入るように虚空を見つめてはタイピングをし、また虚空を見つめてはタイピングをしを繰り返している。  パチリ、と電気をつける。急に明るくなって眩しいからなのか、電気をつけられて不機嫌なのかわからない顔で、そいつはやっとこちらを見た。 「おいちょっと、電気つけんなよ」 「いや、普通帰ってきて暗かったら電気つけるだろ」 「俺は普通と違うんだよ。空気読め」 「誰の家だと思ってんだ」 「俺たちの家」  その前の横暴な言動とは対照的に可愛い答えを出されて、つい口ごもる。
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