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タイミングを見計らっていた金髪が、高柴にドリンクを聞く。これまた手際よくビールを注いですぐに持ってきた。運ばれてきたビールはえらく美味そうだった。ビールサーバーの清掃を怠っていないのだろう、泡のキメがとても細かい。普段はレモンサワーしか飲まないが、たまにはビールも飲んでみようかと思う程だった。店内の様子とは異なり、酒や店員のレベルは高い。これは見習うところがありそうだ。
さらに「一緒に乾杯しても良いですか?」と間髪入れずにおねだり。見た目以上に仕事が出来るタイプ。「勿論」とだけ答えておく。
「じゃあ、下町の平和に乾杯でもしますか」
「平和平和うるせえよ」
グラスを傾け3人で乾杯する。
優秀な店員を交えて2時間程談笑していると、酒の弱い悟は顔を真っ赤にして話始めた。
「そういえば、最近ちょっと困ってましてね」
「なにかあったのか?」
「ええ、なんでもこの近辺の老人達にスマホが普及しまくってるって話でして」
「良い事じゃないか。ただ何というか……似合わないな」
都心の街の光景ならば違和感もないのだろうが、時が止まったようなこの下町では異様な様子ともとれる。
「そうなんですよ!いや別に、今や皆が持ってる物なんで特段不思議ではないんですけど……操作もよくわからないのに買ってるもんだから、携帯ショップに老人達が押し寄せてるみたいです」
「ああ、想像はつくな」
「でしょ?そんでね、よくまあ揉めるんですよ、その人達と店員が。態度が悪いとか説明不足だとかなんとか。仕舞いには警察沙汰も」
警察沙汰とは穏やかではない。しかし……
「よくある話だ」
「でもね、ありすぎなんですよ!交番勤務じゃ足りないので、全然担当が違うのに僕らまで駆り出される始末で、本当困ってるんです」
「お前、暇なんじゃなかったのか?」
「ええ、なんせ部下が優秀なので!」
愚痴なんだか自慢なんだかわからない話が続く最中、俺のスマホが長く振動した。
画面を見るとこちらの優秀な部下、『沙良』の表示。この時間の電話は嫌な予感しかしないが、仕方ないので一度席を外して通話ボタンを押す。
夜の外気が心地よかった。
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