第11話 天乙(テンオツ)貴神

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第11話 天乙(テンオツ)貴神

 なんかものすごい罵倒されたような気がするが、これをここに差し込めばいいのだな……わおっ! 「開いたモん」 「扉なのか、これ」  白い壁の一部がいきなり消えた。これが入り口のようだ。 「とりあえず入ってみよう」 「「賛成だモんでござる」」  中に入ると真っ暗だった。明るいのは外の灯りが入る入り口付近だけ。どうしよう、中に入るのがちょっと怖い。 「入り口入ってすぐ左側の壁にさっきと同じスリットがある。そこにカギを差し込……さっきのとこに差し込んだままで来た? アホか。入り口が開いたら抜けばいいんだよ。さっさと抜いてこい」 「「「誰?」」」  と、ともかく詳しいようだから従うのである。まあ、姿は見えないが口だけは達者というキャラだってあってもいいか。 「斬新なキャラだモん」  カギを抜いたら扉が閉まるかと思ったからそのままにしたのだが、開けてしまえば抜いて良いとはな、こんにゃろめが。サクッと抜いてこっちに差すんだな、ほれサクッ。  その途端である。ぼい~んと巨乳でもないくせにそんな音がして灯りが付いた。いや、なんだかいろいろなものが生き返ったかのような音を立てて動き始めた。 「お、おい、あれ。冷蔵庫じゃないか?」 「奥にはベッドもあるモん」 「これは電子レンジじゃね?」 「キッチンまで付いてるモん」 「水は出るでござるか?」 「じゃー、出るな。ってかこっちには小さいが風呂もあるぞ」  なんていうか。それほど裕福ではない女子大生のワンルームマンション、という感じの部屋だ。水が出るのも不思議だが、電気はもっと不思議だ。この家のどこに電線があったのだろう。見た覚えがない。あの和風の屋敷はいったいどこに? 「電源はさっきお主が差し込んだカギだぞ」 「あれが電源? ってことはバッテリーで動いているのか」 「そうだ。中身は超小型核融合炉だからな」 「……」 「見えないけど言葉だけが聞こえるキャラで良いだろ。そう不思議がるな」 「いや、お前のことはどうでもいいが」 「ふぁぁ?!」 「なんだ核融合炉って」 「水素の原子核をヘリウムの原子核に変換するときに」 「そんなこと聞いてねぇよ! なんでこれが核融合炉……ってマジでか?!」 「質問しているくせに偉そうな態度だなおい。もう答えてやらないぞ」 「あ、すいませんでした。えっと、マジで?」 「マジで核融合炉がその中に入っておる。1年に1回は数滴水を足してやるようにな」 「異世界転生と言ったらたいがいは中世とかそのぐらいの過去の世界で、だから現代知識があるだけでチート能力になるんだが」 「ここはお主のいた世界から4000億年ぐらい未来の国だ」 「「ふぁぁっ!!!」」俺とネコウサである 「ちなみに、そのカギには核融合炉が4つ入っておる」 「ふぁぁぁぁ!?」俺だけである 「この世界は津波や地震で4回ほど亡んでおるな」 「「「ふぁぁぁぁ!?」」」3人ともである 「『』の数で驚いた人数を表現するのやめーや」 「そんな自然災害の多い国なのか、ここ」 「多いとはいっても数千億年の話だがな。多いほうだけど」 「ここはやっぱり島国なのか?」 「ここと言ってもまだお主らは正式に入国はしてないが。お主の良く知っている国の未来だよ。何度も亡んではやり直しているので、文明の発達具合はやけにアンバランスだがな」 「アンバランス?」 「まあ、それはこれからおいおい体験してもらうことになる」 「やっぱりここは日本なのか」 「その呼び名を知っているものはいない。ここはチュウノウと呼ばれておる」 「チュウノウ……中濃のことか。それは国じゃないだろ」 「いや国だ。まだ統一国家というものがないのだ」 「ない?」 「国が大きすぎて人口が少ないから、まとまるだけの理由がない」 「群雄割拠時代というところかな。他にも国があるんだろ?」 「それはもちろん、たくさんあるぞ」 「なるほど……ん? 国が大きすぎるってここは列島だろ?」 「さっき言ったが、南に大陸が出てきてそこと繋がっておる。いまでは世界一の面積を誇る大陸の一部だ」 「ふぁぁぁ!? ユーラシアはどうなったんだ?」 「ああ、あそこは現在ほとんど海となっておる。陸地も沼と池がほとんどで人が住めるところはごくわずかだ」 「あらあら。アメリカ大陸は?」 「似たようなものだな。オーストラリア大陸だけは健在だ。アフリカは良く分からん」 「うぅむ。じゃあ、ある程度の人が住めるのは、この旧列島ぐらいなものってことか」 「そうだな。新大陸は魔物が多すぎて人跡未踏の地と言ってもいいぐらいだが、ここはバリアーのおかげで人が住めるようになっておる」 「バリアー?」 「街をすっぽり覆うバリアーが張ってあって、魔物の侵入を防いでいるのだよ」 「すげぇ……ん? それじゃ他の国とはどうやって繋がるんだ?」 「シンカンセンが通っておる」 「そこはそのままかよ!」  なんかややこしいとこに来ちゃったなぁ。しかしそれだけ文明が進んでいるのなら、俺の遅れた知識なんか意味がない。それなのにあのお団子は俺を必要としていた。 「軽作業要員だモん」 「うるさいよ! その通りだけどな!」 「南の海に大陸ができてそこが魔物の巣となっており、多くの冒険者がそこに向かっては」 「レアアイテムとか拾ってくるのか」 「命を落としておるようだ」 「イキロ」 「高リスクだが運が良ければお宝を持って帰れる、ということで多くの冒険者たちが行ってしまうのだ。だが帰ってくるものが少なく年々人口が減っておる」 「それで俺の出番なのかな」 「さぁ、それはどうだろう。お主はスローライフを条件にしておったな」 「あ、ああそうだ。それができるような環境にしてもらっている……はずなのだが」 「そこはお主次第ってことだな」 「冒険者にはちょっと憧れるが、そんな忙しい仕事は嫌だし、この進んだ技術があれば俺が発明とかする余地もないだろうし」 「それがそうでもない。いまだに伝染病はあるし、飢餓で死ぬものもいるし奴隷もいる」 「酷いなおい!」 「だがこの国には稀にだが大発明をするやつもいて、この超小型核融合炉もそのひとつだ。もっともそれを解析して魔法でコピーをするぐえっぐるじい」 「魔法って言ったか? 魔法があるのか、この世界は魔法なのかおい」 「魔法がなければファンタジーにならんであろう。それより見えない我の首を絞めるやつがあるか!」 「あ、その設定忘れてたわ。しかし魔法があるのか。それは良いことだ」 「さっきボクたちを閉じ込めるのに、自分が使ったばかりな件についてモん」 「我が魔物であることも忘れておるでござる」 「お前らうるさいよ。そうか、あの結界も魔法だったのか。自然現象かと思ってた」 「お主の魔法だよ! 自然にそんな不自然なことが起こるわけがないだろが」 「そ、それはそうだが、ところで」 「ん?」 「「「お前誰?」」」 「やっと聞いてくれたか。えっへん、テンオツ貴神だ。敬うがよい」 「なんといまごろ名前が決まったのか」 「最初からあったわ!! 作者が思い出せなかっただぐしゃ」 「なんだって?」 「なななな、なんでもない、ない。ちょっと咳が出そうになっただけだ」 「変わった咳だな。まあそれはいい。お前はあのおだんご頭に言われて俺の世話を焼きにきたんだな?」 「違うわ!! あんなものに使われる我ではない」 「違うのか?」 「違う、全然違う、カツオ出汁と豚汁ぐらい違う」 「なるほど。まったく分からん。それじゃお前はいったい?」 「覚えてないのか、アメノミナカヌシノミコトが言った言葉を」 「転生したときにほとんど忘れたテヘ」 「テヘではない。記憶はそのまま持って来ているだろ。覚える気がなかっただけであろうが」 「そうかも知れないが。それで、アマちゃんはなんて?」 「お主、創造神をちゃん付けとかバチが当たるぞ。我はお主の守護者だよ」 「あ、思い出した。あの役に立たない」 「やかましいわ。それはあいつらが邪魔するからだ!」 「あいつら?」 「それも覚えてないのか。お主には我も入れて5人の貴神が付いておるのだ。我が仕事しようとすると、やつらが邪魔するのだよ」 「そんなやつら捨ててしまえばいいのに」 「あの4人だってひとりひとりは優秀で希有な貴神だ。そんなことできん」 「そんな優秀なくせに、なんで邪魔になるんだ?」 「船頭多くして船山に上る、ってやつだな。貴神はひとりが一番良いのだよ。せいぜいがふたりまでだ。5人もいるから意見がまとまらん。そのため帰って運気を下げてしまうのだ」 「なんぎな貴神だなぁ。それでいまはお前だけなのか?」 「そのようだな。理由は分からんが、やつら、転生したときにどこかに引っかかっているようだわはは」 「それは良かった。じゃ、オツにしっかり働いてもらうこととしよう」 「は?」 「まずはこの部屋と風呂の掃除をしてくれ。そのあとお湯をためてくれ。風呂に入りたい」 「いや、名前を省略されているようだが、我は貴神であって」 「あ、トイレもな」 「人の話を聞けーーー」 「俺はちょっと寝るから、起きるまでやっておくように、ぐぅ」 「そんなこと我の仕事……寝たのか。ずぶとい神経したやつだ。おいネコウサ」 「モん?」 「お主に言いつける。部屋と風呂とトイレ掃除をするように」 「拙者ら、ここから出られないでござるが」 「あぁ、しまった。それは本人にしか解除できないのだった」 「うっかりな貴神もいたものだモん。起こして解除させて欲しいモん」 「我は人間に付属している存在じゃ。人には触れられないし普通は見えもしないのだ」 「それで姿がない設定でござるか」 「設定言うな。起きるまで待つしかないな。お主らは大丈夫か?」 「「いまのことろは」」 「じゃあ、寝て待つが良い。話はこやつが起きてからにしよう」 「掃除は良いのでござるか?」 「我にはできんと言うたではないか」  その夜中、俺はおかしな音を聞いて目覚めることになる。
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