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二
私たちが住む街の一角にこんな場所が、いつの間に出来ていたのだろう。紗栄子の車に乗せられて連れて来られた場所。コンビニのような平家の建物が目の前にある。
コンビニとは違い、煌々した灯りは無い。ただの平家で白い壁と入り口付近に『夫バンク』と書いてある。建物前には駐車スペースがあり、既に何台もの車が停まっていた。
「もうすぐ18時ね?」
紗栄子が腕時計を確認しながら私に言った後だった。見覚えある背格好をしたスーツを着た男性がひとり、ゆっくりと夫バンクに入ろうとしていた。
「あっ……」
声を上げた。
夫だ。思わず見入ってしまう。まさか、夫がこの場所に現れるとは思っていなかった。だが夫はどこか虚だ。意識はハッキリしているのかいないのか。足取りがいつもの感じと少し違った。少し怖さもあったが、それをただ見守った。暫くすると夫は平家の中へ消えた。
「ね? 自動でしょ?」
紗栄子がそう言った時、突然、私の目の前の景色が揺らいだ。そして自分の意思とは関係なしに助手席の扉を開けていた。
「あら? 朋絵(ともえ)……。どうしたの?」
紗栄子の言葉に頭では返事ができるが、声が出ない。いや、私は違う言葉を発していた。
「私も妻バンクに預けられたみたい……」
自分でそう言うと、車を出て、勝手に平家に向かい動き出す。
うっ嘘でしょ!? そう思ってはいるものの体は勝手に平家に動き出し止まれない……。
と、慌てふためく様子もなく紗栄子は私に手を挙げ言った。
「あら? 旦那さんも同じ事を考えてたみたい……」
聞こえる紗栄子の声は遠くなる……。
「朋絵(ともえ)、ざーんねん……。いつ迄かは、知らないけど『妻バンク』に行ってらっしゃい。戻ってきた時には、旦那さんとの喧嘩の記憶はないからね?」
「……あっえっ……」声が声にならない……。
最後に紗栄子の言葉が小さく聞こえた。
「あははっ。お互い様って面白いね……。バイバイ……」
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