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【五】関西国党本部前
数日前、この異世界、関西国に連れて来られた俺と千景。大阪の道頓堀だと思っていた場所は、関西人のおっさんの故郷である関西国の都市ナンバーゼロという街だった。
この街で、俺と千景はおっさんに国を救ってくれと懇願された。
俺と千景の仕事は声優。その声優の声量と声域を使い、ゾンビのように群がりただ街を歩くだけの口無しに声を張り上げた。
すると嘘みたいな話だが、頭の海馬を刺激された口無し達は、我を取り戻し、自覚がある人へと変貌した。
最初は限りある人数だったが、この数日間、俺と千景は、おっさんに連れられ、街中をただ歩き回っている口無し達を目覚めさせることに成功する。
解放する人数が増えると、人間に戻った数は数千万を超えた。
一人の意識が目覚めると、俺たちの声量を使わずとも、白いマスクを剥がしにかかる人々……。それで街を練り歩くだけの存在だった口無しは、一気に覚醒し、物が言えない族から、人間へと覚醒し蘇った。
そうなると、意思を持つ人々は、今までの政権下で何をされていたのかすぐに気づく。
皆んな一斉に声を出し、おばーばがいる国党本部へデモ隊として行進し始める。
ここは関西国の政治の中心部、関西国党本部前……。
おっさんと俺と千景。そして解放された人々はデモ隊を作り、今、おばーばがいる関西国党本部前で、国旗を広げ、数千万人が一体となり、声を出しおばーばを引き摺り下ろそうと声を張り上げていた。
「出てこい! おばーば! お前らの悪事はもうバレている!」
マスクを外せた事で、正気を取り戻した人々が集まり「おばーば、交代!」と呼び叫ぶ。
リーダー格の男が、民衆を束ね、声を張り挙げ訴えかける。しかし、路上のデモ隊、数千万人を見下ろしている本部党員の姿は見えるが、おばーばは一向に現れず、こう着状態が続いていた。
デモ隊の中には、もう我慢の限界を向けている者もいるのか、石や、武器になるものを本部ビルへ投げつける者も現れていた。
俺と千景、おっさんも本部前に集まっていた。
「どうすんだ? おっさん……。このままじゃ埒があかない!?」
【わかったとるわい! だが、この数千万のデモ隊は、もうメディアも無視できん数になって来たわ!】
「それはいいけど、他に策はないの?」
【大丈夫や。おばーばは、元々堪え性ない奴……。じきにこの騒動を鎮めようと顔出す!】
おっさんはそう言ったが、こう着状態は続いていた。
……と、この群衆の先頭に、大型バス車両が何台も本部ビル前に集結した。
【ほら見ろ! 焦ってる証拠だ】
何か動きがある様だ。それをじっと見ていると、大型バスから、防護服を着た医師と看護師たち、男女大勢が降りてくる。そして……。
「この街中にコーレイナウイルスは蔓延しております。あなた方は、コーレイナウイルスにより、意識が錯乱状態です。今からあなた達に向け、コーレイナ除去注射の摂取を開始します!」
その言葉の後、防護服の男女達は、大型ライフルのようなものを持ち、デモ隊に向けて照準を合わせた。そのライフルの先には注射器のような物が付いていた。
【やはり、来たか!】
「くそっ! そうすんの!?」
俺と千景も叫んだ。デモ隊。群衆に向けてライフルを向けられた。
撃ち殺されるのかと思い、先頭から一旦引き下がるようにおっさんに促される。
「目覚めた人たちが……!」
俺はデモ隊先頭にいる人たちが心配になった。だが、おっさんの腕に引かれ後退させられる。
その後ライフルはデモ隊先頭に打ち込まれた。
「うわっ!」
打ち込まれたライフルは、銃弾ではないようだ。
頭に食らった人を見ると、それは何かの注射器の様なモノが額に突き刺さって悲鳴があがる。
だが死にゆく人の悲鳴ではない。
人々は倒れるどころか、俺と千景が、この異世界に来た時に見たマスク人間のように、突然意識朦朧とし正気を失い、口無し族に逆戻りしていた。口無しになった人は、無言で列をなして歩き出す。
「なんだあ!? 殺されない!?」俺は叫ぶ。
【やはりか……。殺すより支配し先導たい思いが強いらしいな。おばーば!】
おっさんは叫ぶと、デモ隊に注射器を打ち込ませまいと、全員に後退するよう呼びかける。前方にいる人々はライフル注射を打ち込まれ、モノが言えない族、口無しに変貌しヨタヨタと歩き出す。
千景の腕を取り、本部ビルから数百メートルダッシュをして引き下がった。
千景は、何かに気づき、俺に声をかける。
「ねぇ……。タカちゃん……。タカちゃん!」群衆に紛れて声を張る。
「ん? なんだ? どうしたの?」
「これ! 使えないかな?」
千景は名案を思いついたのか、自分の腕に付いているバクオンジャーに変身するデジタルウォッチを指差し言う。
「バクオンジャー! 変身!」
そんな無理だろ! ……と、思っていると……。
千景は叫んだ後、光とオーラに包まれた。普通の人間から、爆音戦隊バクオンジャーのサポートキャラ、爆実(ばくみ)へと姿を変えた……。
まさか、そんなことが出来るとは思ってもみない。
千景の一瞬の起点を利かせた変身で、本部前の抗争は一気に形成逆転にみえた。
「千景!」俺は千景が心配になり、俺も右腕に付けている変身デジタルウォッチに叫んだ。
「バクオンジャー! 爆星降臨!」
その行為に、関西人のおっさんが叫ぶ。
【お前ら!? 何を!?】
おっさんの声が聞こえた後、国党本部前の玄関扉がゆっくりと開いた。ビル内から巨体を揺らし、悪どい目つきをした団子頭に白髪、顔が大きく体が太っちょのおばあさんが姿を表した。
『ヒーヒッヒッヒッ! 面白い奴がおるのぉ!?』
俺たちの変身を見て、異様な者が現れたと思ったのか、最後の砦である、おばーばが登場した。
その姿は、人間とは思えない図太い図体。巨大な頭を付け、獣の様に鋭い目つきのおばあさんの姿。青いワンピースから覗かせる老いた手足とは裏腹に、一振り腕を振るうと、デモ隊の人間達が軽く後方へ吹っ飛ばされていた。
「何だとぉ!? このパワー、奇獣じゃねぇか!?」
まるで、爆音戦隊バクオンジャーに出てくる獣の如く、巨大な力だった。
「おばーば!」
爆実に変身した千景が、おばーば目掛けて、武器である爆音を唸らせ手刀を振り下ろした。おばーばーはその攻撃を簡単に交わし、腕を一振りした。
「千景!」
俺は名前を叫んだ。しかし千景は簡単に俺の後方へと吹き飛ばされる。
突然俺の頭の線が、ブチっと切れる音がした。体が勝手に動き、おばーば目掛けて飛びかかっていた。そして俺の武器である爆声(ばくせい)、大声をおばーばに浴びせるべく、大きく息を吸い叫ぶ。
「おばーば! お前! 許さん!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ん……ん……?」
何か違和感を感じた……。
「誰が、おばーばだって? しかも許さんやと?」
「えっ……」
一瞬ココがどこだか分からなかった。
「よくも、まあ、母親に向かって、おばーばって……。まだ私は四十超えたばかりや! 孝之! 早う起き!」
ここは俺の部屋だった……。ベッドの掛け布団をめくり上げ、たたき起こす母親の姿だった。
「えっ……ん? えっ……」俺は戸惑い辺りを見渡す……が、ただの俺の部屋だ。
「えっ ちゃうわ! 早よ起き! アニメーションスクールのお友達、千景ちゃんだったっけ? 女の子が来てるで」
「えっ……」
夢……? 夢やったんか?
「はあ、もうこの子ったら、また変な夢でも見てた? 余り女の子待たせたら嫌われるで?」母親はそう言うと、扉を閉めて出ていった。
確かに、ココは俺の部屋だった。おばーばと戦っていたはずなのに……。
「ってか、夢? マジで……嘘やぁ……」俺はまた関西弁で言う。
期待の新星の売出し中の声優……。だったはず……。呆気に取られながらも、千景を待たせるわけにもいかず、俺は着替えを済ませると、ボディバッグを持ち、朝飯も食わずに玄関の扉を開けた。
今日はとても朝からいい天気で、日差しが眩しい。
「おっはー!」
元気よく挨拶する千景を見て、俺も挨拶をする
「おう! おはよう……ごめん俺、寝坊した……」
今まで通り普通に応えたつもりが、俺を見て呆然とする千景がいる。
「えっ……。タカちゃん……。いつから僕から俺になったん?ってか、私のこと……千景って……」
「えっ……? 何か変?」
「うううん……。なんかカッコいい! どうしたの? 何? 何かあったでしょ?」
尋ねた千景に俺は応える。
「とんでもない夢見たんや! なんか夢で大人気声優になってた。で、おまけにそこで俺って言うてたなぁ……って」
「えっ……。タカちゃん、それ……私も今朝見た!」
切り返す千景は、とある物を俺に見せてくる。
「なんか知らないけど、こーんな物が私の鞄に入ってたんよ」
「えっ……」
それを見た瞬間、俺は固まった。
千景が鞄から出した物は、おばーばー本部で戦った際、ライフルから打ち込まれた注射器と、爆音戦隊バクオンジャーの変身アイテム、バクオンジャーウォッチだったからだ。
了
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