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「浜本、何してんだ」
「あっ冴島部長!いや、あの、仕事が終わらなくて……残業してすみません」
俺が声を掛けると慌てふためいて俺にペコペコと頭を下げた。どうやら彼は、残業していることに俺が苦言を呈したと思っているのだろう。とんだ見当違いだ。
彼の机には資料がいくらか散らばっている。俺なら今晩のうちに捌ける量だが、彼には終電まで残っても終わるか危うい。普段だったら雷を落としながら終電までに何とか終わるようフォローを入れるだろうが、今日だけは駄目だ。そんなこと、させられるはずがなかった。
「なあ、今日が何の日か、覚えてるんだろうな?」
「……」
彼だって忘れるはずがない。俺が殊更に声をかけなくても、彼は今日という日がどれだけ大切か重々承知していた。だからこそ、どうしようもない状況下で何も返す言葉も、術もないのだ。
「希を泣かすな」
「いや、でも仕事が……」
「俺は生憎今夜は暇なんだよ。俺に押し付けてさっさと帰れ」
――聖夜だろ、今日は。
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