今宵は深酒に逃げようか

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 たった一人の愛娘は、物心がつく前から俺によく懐いていた。「おおきくなったらパパとけっこんするの」、そう言ってぎゅっと抱きついてきた娘が可愛くて仕方なく、母親集団の雰囲気や噂話に嫌気が差そうとも、学校行事には欠かさず妻と揃って出向いた。  我ながら、世間一般より随分仲の良い親子だと思う。希は思春期に入っても学校のことをよく話してくれた。「お父さんのパンツと一緒に洗わないで!」なんて言う日もとうとう今日まで来なかったし、大学に合格した際は一番に連絡をくれた。    いつも屈託のない、にこにことした顔で俺に色んなことを話してくれる、そんな希が唯一俺に殆ど話さなかったことは、異性の話だった。  今まで恋愛話なんて一度も聞いたことがなかった。もしかしたら俺が知らないだけで、今までも何人か彼氏がいたかもしれない。甘酸っぱい話も淡く苦い話も、人並みに持ち合わせていたのかもしれない。  希が社会人になってからは、そろそろ結婚を視野に入れた付き合いをして、いつか彼氏を紹介されるかもしれないと、希もいい歳になってくるからと、そうぼんやりと考えていたが、思ったより早くその日は訪れてしまった。
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