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思えば休日はよく出かけるようになった。リビングでスマートフォンを弄る時間が増えた。希は何をしなくても十分可愛いかったが、今まで以上に身だしなみに気を配ったり着飾ったりするようになった。
「あのね、お父さん。……今ね、真剣にお付き合いしている人がいるの」
珍しく歯切れ悪く話を切り出した希の表情を見て、俺は鈍器で頭を殴られるような気分だった。続いた『今度家に連れてくるね』の言葉に何だか娘を遠くに感じ、会社では堅物で通っているこの俺が、その晩部屋で一人涙した。
俺の大事な大事な娘だ。半端な奴が来たら殴ってやる。そう割り切り意を決して出迎えたら、玄関に立っていたのはまさかのまさか、俺の部下だったのだ。
いや、部下でも誰でもいい。殴るは冗談だとしても、どこか半端なところがあるやつだったら思いっきり否定できた。お前なんかに娘なんかやらんと青筋を立てて、追い返したかった。けれど生憎なのか何なのか、そいつは俺が一番気に入っている部下だった。
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