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もう、大事な愛娘の一番は、俺じゃなくなる。とっくに俺は希の一番じゃなかったと思うが、今度こそ決定打を打たれたのだ。
今夜は聖夜だ。婚約後初めて迎えるクリスマスイブでもあり、二人が付き合い始めた記念日でもある。
娘は今頃、浜本の部屋で料理を準備しているのだろう。母と相談しながらあれこれと悩んでいたプレゼントを、部屋のどこかに隠してそわそわしているのだろう。
こんな大切な夜に娘を一人にさせるような息子は要らないからな。
「本当にすみません!後、お願いします!」
「いいから早く帰れ」
「あ、あの、結婚記念日!冴島部長の結婚記念日の時は仕事、代わりますから!」
心から申し訳ないと思っているように何度も頭を下げ、よく分からない引継ぎだけ口走り、浜本は飛ぶように帰っていった。その慌てふためく後ろ姿に、そっと零した。
「俺は結婚記念日に仕事が終わらなくて残業するなんて馬鹿なこと、しないからな」
その前に何が何でも終わらすんだよ。やっぱりお前は、まだまだだ。
娘の一番が今はお前であろうと、結婚を控えて幸せいっぱいであろうと、今はまだ認めてやらない。これが父親の意地だと分かっていようとも。
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